「もっと自分たちの頭の回転を早くしてクリエイティブに攻めないといけない」
女子アジアカップ2023、日本代表は決勝で中国と対戦し、71-73と惜しくも敗れ6連覇を逃した。日本はティップオフから各選手が高い集中力を持ち、中国に激しいプレッシャーをかけ続け前半で35-26とリードを奪う。しかし、後半の立ち上がりで守備の連携がうまくいかず、相手にイージーバスケットを連続で許してすぐに追いつかれてしまう。
ここから日本はディフェンスを立て直すことで、一進一退の攻防が続いていく。しかし、特に第4クォーターに入ると、オフェンスでズレが作れないことでショットクロックギリギリのタフショットが続いて得点が伸びず、残り2分で6点差をつけられてしまう。
だが、この絶体絶命な状況でキャプテンの林咲希が躍動する。ゴール下にタイミングよくダイブすると、ファウルを受けながらレイアップを決め切り3点プレーを成功。さらに続くポゼッションでは代名詞の3ポイントシュートを沈め、土壇場で追いつく立役者となった。最終的には敗れてしまったが、林の勝負強さが光った試合となった。
今大会の日本は、グループリーグ最初の2試合となったチャイニーズ・タイペイ、フィリピン戦は大差をつけて勝ってはいたが、地力で大きく劣る格下相手に攻守でチグハグなプレーも目立っていた。それがグループリーグ最終戦のオーストラリア戦で圧勝すると、準決勝、決勝と確かなステップアップを見せた。
林は何よりも6連覇を逃したことへの悔しさを見せつつ、決勝戦をこのように振り返った。「チームは良い雰囲気で試合を重ねるごとに良いチームになってきました。その成果を出せた結果、決勝で競ることはできました。ただ、後半になってどうやって攻めようか考えすぎて停滞してしまう時間帯が多くなってしまいました。もっと自分たちの頭の回転を早くしてクリエイティブに攻めないといけない。恩塚(亨ヘッドコーチ)さんの指示だけでなく、自分たちで判断してプレーをできていたら勝てたと思います」
日本代表のスタイルは、カウンターでの1対1️を起点とし、そこでズレを作って切り崩していくのが基本が。しかし、中国はこれまでの相手と違い、1対1️で簡単に抜かせてもらえず、そこで停滞してしまった部分もあった。林はこう振り返る。「たとえば大きい選手に対して簡単なレイアップを打てない時、もっとスクリーンなど人を使って崩していかないといけなかったです。それがカウンターでの1対1をするだろうと、ボールに絡んでいない選手たちの動きが止まってしまったところがありました」
そして林は、局面毎に選手個々の判断力、創造性を重視する今のオフェンスの戦術を基本としつつも「みんなでしっかり意思疎通を図る中で、たまにはセットプレーをやってもいいのかなと思いました」と、難敵を相手にする時は柔軟性がより大事になると考えている。
「相手が大きく、予想もしない動きをしてきて1対1からズレを作るのに苦労する時、セットプレーがいい時もあると思うので、そこは恩塚さんにも話していきたいです。もっといじわるなバスケットをしないといけない。課題はすごく明確になったと思います」
「モヤモヤがちょっと消えて、課題がクリアになってきました」
このように林は、キャプテンとしてコーチ陣にも感じたことを積極的に発信していく。大会序盤は「キャプテンとしてみんなのことや、チームの雰囲気を考えながらやっていくことで難しい部分もありました」と苦労し、個人としてなかなかパフォーマンスが上がらないところもあった。だが、「最後はチームの雰囲気が良く一丸となってやれたことで、自分のプレーに集中できたのが大きかったです」と、チームの結束力が高まることで調子を上げ、決勝では3ポイントシュート6本中3本成功の12得点4リバウンドと本来のプレーを披露した。
日本代表のキャプテンといえば、近年でも吉田亜沙美、髙田真希と実績、カリスマ性ともに申し分のない選手たちが務めてきた。その系譜を継ぐことは簡単なことではないが、今大会を通して林には、自身の目指すべきキャプテン像が見えてきている。「少しずつやっていくしかないなと思いました。チーム作り、雰囲気作りはすぐできるものではないです。人の気持ちを変えるのは本当に難しいですが、今の代表は周りがすごく助けてくれてああしよう、こうしようと相談ができるチームです。自分は言葉がうまくないですけど、雰囲気を良くするために自分がトップになって示せる部分はあり、それを続けていきたいです。そしてキツイ時間帯にやるべきことをやるためには、もっと締める部分もあるなど学べました」
最後に今大会を通して、「チームとして進化できた手応えがあるのか」と聞くと、林はこう答えてくれた。「モヤモヤがちょっと消えて、課題もクリアになってきました。ただ、現状を選手一人ひとりがどう感じているのかが大事で、それぞれの意見を聞いてみんなの意識を高くしていかないといけないです」
6連覇という結果を出せず、引き続き様々な課題を抱えている代表だが、昨年9月のワールドカップに比べて確かな進化を見せることはできた。そのポジティブな要素には、林が代表の新しいリーダーとしての自分のスタイルを確立しつつあることも間違いなく含まれる。