文・写真=鈴木栄一

「すべての試合でニックがベストプレーヤーだと思われたい」

ファジーカスほどの得点能力があれば、当然ながら相手チームは彼を抑えるために様々な手を打ってくる。2人がかりのディフェンスはもちろん、3人がかりでのマークを受けることもしばしば。だが彼にとっては当たり前のことであり、対応について自信を見せる。

「NBAを除けば、高校や大学の時からいつもダブルチームやトリブルチームを仕掛けられてきた。16歳、17歳の頃から経験しているので、相手がどんなタイミングで来るのか、それに対していつパスをさばけばいいのか、どんなシュートなら決まる確率が高いかなど、どう対処すべきかは分かっているよ」

「それに、ダブルチームが来たからといってシュートを打ってはいけないということではない。シャキール・オニールはいつもダブルチームを受けていたけど、それでもシュートを打ち続けて30点、40点を取っていた。ただ、多くのシュートを打つにしても、効果的に決めないといけない。でないと、相手にダブルチームが効いていると思われてしまうからね」

今回の取材を行った際、印象的だったことがある。それはチーム練習が終わった後でも、ポストプレーからミドル、そして3ポイントシュートなど様々に位置を変えてシュート練習をかなり行っていたことだ。「日本に来た最初の頃は、今ほど練習後の自主練習をしていなかった。それでも大きなインパクトを残せていた。ただ、それでは自分が望むようなベストプレーヤーの位置をキープできなかった。実際、1年目のアイシンを相手にしたJBLファイナルでは、スタミナ切れを起こしていたからね」と述べる。

「僕はすべての試合でコーチやファンに、『ニックがこの会場でのベストプレーヤーだ』と思われたい。この姿勢はずっと持ち続けている」と高い志を語った。

もっとも、川崎のような常勝チームで毎試合30得点を期待されることにプレッシャーは感じないのだろうか? それを質問するとファジーカスは「考えないようにしているよ」と笑った。「妻が助けてくれるんだ。調子が悪かった試合の後、『35得点とか15リバウンドでなくても世界の終わりじゃない。次の試合では活躍できるわ』と言ってくれる。だから僕の成績が悪かったということは、逆に誰かの成績がベストであることだと思うようにしている。そうすれば怒ることもないし、チームが試合に勝ってさえいればOKだよ」

「横浜でも東京でも、どこにでも電車で移動しているよ」

日本に来て5シーズン目、それも川崎一筋ということで、「もう川崎は自分の街のようなものさ」と語るファジーカス。「ラゾーナや川崎駅にいけば、ファンに挨拶されたり、サインを求められたりする。ラゾーナは駅の隣だし、食事にも行く。中でもカリフォルニアピザキッチンによく行っているかな。パンダエクスプレスにも行ったよ。アメリカの店より味は良いかもね」と続け、「チーム名に川崎がつき、街を代表することになったのは素晴らしいね」と、川崎への愛着を語る。

また、日本の暮らしへの順応ぶりも語ってくれた。「プライベートでは電車で移動しているよ。日本に来て2年目には、地下鉄などの乗り換えも慣れていた。乗る電車を間違えることがないわけじゃないけど、最終的に目的地にたどり着けないことはない。横浜でも東京でも、どこにでも電車で移動しているよ」

個人で傑出した数字を残しているファジーカスだが、もちろん彼が目指しているのは個人タイトルではなく、あくまでリーグ優勝のタイトル。「僕らはNBLで最初の王者となった。Bリーグでも初代王者になれたらスーパークールだよね。ただ、ファイナルのフォーマットは一発勝負になったので、よりタフになった。シーズンの最後に調子のピークを合わせるのは簡単なことではないよ」と勝負師らしい見解も語ってくれた。

そして開幕直前となったオールジャパンについても、もちろん優勝への強い意欲を見せている。「第1シードとなり、優勝候補と見られている。チャンスはあると思う。ただ、勝利が保証されているわけではないので、もっとチーム力を高めて臨みたい」

これからシーズンが深まるにつれ、対戦相手がこれまで以上のファジーカス対策を行ってくることは容易に想像できる。その中でも彼が、今の驚異的なパフォーマンスを維持できるのかは、川崎だけでなく、リーグ全体にとっても大きな注目点だ。ただ、一つだけ確かなことは、彼が現在の成績に慢心することなく、常にハードワークを惜しまずにプレーを続けることだ。