ケイレブ・マーティン

「僕はただ、このシリーズで自分の足あとを残したかった」

東のカンファレンスファイナル、ヒートvsセルティックスはもつれにもつれる激闘となった。ヒートは3連勝の後に3連敗を喫し、敵地で『GAME7』を迎えたが、追い詰められてからの底力を発揮して103-84とセルティックスに完勝。エースのジミー・バトラーがカンファレンスファイナルMVPに選ばれた。

バトラーはこのチームのエースであり、苦境でこそ奮い立つヒートのメンタリティを象徴する存在である。その『プレーオフ・ジミー』にカンファレンスファイナルMVPの投票で僅差に迫ったのがケイレブ・マーティンだ。

勝負の『GAME7』でバトラーは28得点7リバウンド6アシスト、マーティンは26得点10リバウンド3アシストと、いずれも良いスタッツを残しているが、試合に大きなインパクトを与えたのはマーティンの方だ。バトラーの28得点のうち9得点はほぼ勝負の決した第4クォーターのものだし、シリーズを通してセルティックスの守備に苦しんだ印象が強い。『チームの顔』であるバトラーに票が集まるのは当然だが、バトラーもバム・アデバヨもオフェンスで苦しむ中、マーティンのステップアップがなければヒートのNBAファイナル進出はなかっただろう。

マーティンはNBAキャリア4年目の選手。ドラフト外で入団したホーネッツで2シーズンを過ごした後、昨シーズンに2ウェイ契約でヒートに加わった。昨シーズンもローテーションには入っていたが、PJ・タッカーの控えとして出番は多くなかった。昨シーズン、同じくセルティックと戦ったカンファレンスファイナルの『GAME7』で、マーティンはディフェンスに難があることを理由に1分もコートに立たなかった。

それでもこの1年で彼は大きく成長した。タッカーが移籍した今シーズンは先発フォワードに抜擢されたが、シーズン途中にケビン・ラブが加入すると2番手に逆戻り。それでも、このシリーズ中に立場を逆転させている。1年前には出場機会のなかった選手が、今回は攻守に大活躍でチームを救う働きを見せた。「自分の実力は分かっていて、いつかは発揮できると思っていたけど、こうして敵地での『GAME7』で来てくれて本当にうれしい」とマーティンは言う。

「僕はただ、このシリーズで自分の足あとを残したかった。自分自身を証明したかった。だから、どんな形であれチームがファイナルに進むために必要なことをやるつもりだったよ」

ヘッドコーチのエリック・スポールストラが、バトラーがアデバヨが、マーティンの人知れず重ねてきた努力を称えた。それでもマーティンは「それはこの組織のおかげだ」と言い、こう続けた。「コーチやトレーナーと一緒に、この瞬間のために絶えず準備をしてきた。超ハイレベルの競争でやっていけるようにね。これからもっと努力するし、もっと成長する。ジミーやバムのような選手の力を借りて道を切り開くんだ」

ドラフトで指名を得られず、Gリーグを経てここまでやってきた。27歳でのブレイクはNBAではかなりの遅咲きだが、彼は今という充実した時を満喫するとともに、やるべきことをしっかりと見据えている。「自分がどんな道を歩んで来たかは常に頭にある。だからこそ、自分が今ここにいるのがどれだけ素晴らしいことか理解しているよ。少々奇妙な気分だけどね。でも、まだやり遂げたわけじゃない。あと4勝するんだ。ここまでやり通したんだから、あと4つ勝ちたい」