デニス・ロッドマン

文=神高尚 写真=Getty Images

ドラモンドのリバウンド数はロッドマンに匹敵

近年のNBAでは『3ポイントシュート』が急激に増えてきました。2012-13シーズンに初めて平均アテンプト数が20本を超えてから、5シーズンが経過して平均30本を超えているのが今シーズンです。その根底にあるのが試合の急激なペースアップで、ルール改正も手伝って攻守の切り替えが早くなり、平均得点も12-13シーズンが98点だったのが、110点を超えています。

これらの傾向を加速させたのは『スモールラインナップ』の採用で、ビッグマンの人数を減らし、3ポイントシュートを打てて機動力のある選手を重用するようになりました。その代名詞的存在であるウォリアーズの戦略を模倣するチームが増えたと捉えることができます。圧倒的な強さを誇ってきたチームだけに、他のチームが対抗するためには必要な変化でした。

しかし、今シーズンはこれまでの流れから逆行するような特徴も出てきました。それは特にリバウンドで顕著になっており、減り続けていたオフェンスリバウンドが増加に転じています。ペースアップによってディフェンスリバウンドも0.6本増えていますが、オフェンスリバウンドはそれを上回る0.7本の増加です。

そもそもオフェンスリバウンドが減少していた理由は、3ポイントシュートをベースにしたオフェンスでゴール下の人数が減ったことと、ペースアップでトランジションディフェンスが重要視されるようになってきたことです。しかし、オフェンスリバウンドが多いトップ6チーム(サンダー、ピストンズ、ナゲッツ、ヒート、ニックス、ネッツ)は、速攻での失点がリーグ平均を下回っており、「オフェンスリバウンドとトランジションディフェンス」を両立させることに成功しています。オフェンスリバウンドを奪えば速攻を出されない点も含めて、攻守のバランスが取れます。

また、個人スタッツを見ても2桁リバウンドを記録する選手が11人から16人に増えました。同じチームから2人が2桁を稼いではおらず、「特定の選手にリバウンドが集中する」ケースが増えてきています。ラッセル・ウエストブルックのような特殊な例もいますが、センター陣がゴール下での存在感を強力に発揮しています。

ここでもオフェンスリバウンドの増加は顕著で、昨シーズンと比較すると平均4本以上は3人から6人に、平均3本以上は7人から13人にまで増えています。トランジションディフェンスが重要な中でもオフェンスリバウンドを強化しているチームが多いのは、特定の個人が奪っているケースが多いのです。1人で奪いきる選手がいてくれれば他の4人が戻ることが可能になります。

個人のリバウンド力を最大限に生かした戦術

リーグ全体でスモールラインナップが流行したことで、逆にゴール下で存在感を発揮できる個人の力が目立ち始めています。その傾向はリバウンド王であるアンドレ・ドラモンドを筆頭に昨シーズンから見られていて、ドラモンドが記録した1247リバウンドは1993-94シーズンのデニス・ロッドマン以来の最多リバウンド数でした。

ちなみに78試合に出場したドラモンドはあと1リバウンドを奪っていれば平均16リバウンドで、こちらもロッドマンの96-97以来の記録になるところでした。ピストンズはゴール下をドラモンドの圧倒的なリバウンド力に任せ、周囲はロングリバウンドやトランジションディフェンスに集中できています。

ドラモンドに代表されるように個人のリバウンド力を最大限に生かした戦術が今シーズンの流行の一つです。それはスモールラインナップが発展してきたからこそ生まれた対抗措置の一つでもあります。各チームからビッグマンが減ったことで、結果的にゴール下で圧倒的な存在感を発揮できるセンターの重要性は高まりました。1人でオフェンスリバウンドを奪ってくれるセンターがいれば、自分たちの得点を増やすだけでなく、相手のトランジションオフェンスを防ぐことにも繋がるのです。

3ポイントシュートを中心にした戦術が浸透し、センターにも3ポイントシュートが求められるようになりましたが、その一方で多彩なスキルは持ち合わせていなくても、1人でオフェンスリバウンドを制するセンターを戦術として取り込むチームが増えてきたのが今シーズンの特徴です。

理想を言えばセンターには3ポイントシュートも打てて、オフェンスリバウンドも奪ってほしいわけですが、その両方を実現しているのはアンソニー・デイビスとカール・アンソニー・タウンズの2人くらいしかいません。両方を求めるのは簡単ではないので、選手の特徴を上手く取り込んだチーム戦術が大切になっています。ウォリアーズが強いからこそ模倣するチームが増え、それを逆手に取るような戦術も次々に生まれてくるNBAの面白さを象徴した変化です。