「でも君たちが何を言おうが、ウチの2勝0敗だよ」
ナゲッツのフランチャイズであるデンバーは、コロラド州の州都ではあるが人口70万人の地方都市で、街の規模としてはレイカーズのロサンゼルスに遠く及ばない。ロサンゼルスはニューヨークに次ぐアメリカ2番目の都市であり、ハリウッドを抱えてメディアの情報発信力もデンバーとは桁違いだ。結果として、ナゲッツとレイカーズの西カンファレンスファイナルは、注目度の高いレイカーズが『主役』として報じられることになる。
ナゲッツを率いるマイケル・マローンは、以前から自分たちがメディアに軽んじられていると感じている。ナゲッツがどれだけ素晴らしいバスケをしているか、そのためにどんな犠牲を割いてきたのかというストーリーが無視され、人気チームの対戦相手としか扱われないことに腹を立てている。
その不満はこれまでも何度となくこぼしてきたが、プレーオフのカンファレンスファイナルという舞台でもそれが変わらない状況に、彼は不機嫌さを隠そうとはしなかった。第2戦の試合前、彼はメディアに「八村塁がニコラを6ポゼッション守ったことをみんなが話題にしていた。今日の試合でどうなるか、見てみようじゃないか」と話している。
この試合に108-103と競り勝った後、マローンはチームの戦いぶりについては上機嫌で振り返ったが、メディアの扱い方について話が及ぶと不満気な表情でこう語った。
「初戦でウチが勝っても、みんなレイカーズの話題ばかりだった。率直に言えば、それが全国メディアの扱い方だ。『レイカーズは負けたけど、何かを発見したんだ!』という感じで、ニコラの歴史的な活躍については触れられない。ニコラはプレーオフでトリプル・ダブルを13回記録していて、これは歴代3位の数字だ。信じられないレベルのことをやっているのに、話題はレイカーズがどうアジャストするかだった。でも君たちが何を言おうが、ウチの2勝0敗だよ」
当のヨキッチは何も気にしていない。彼はいつも通りのシニカルな笑みを浮かべてこう言う。「別に僕らにとっては新しいことじゃない。『バブル』のシーズン、ジャズとクリッパーズを相手に1勝3敗から逆転した時も、話題の中心は相手チームで、僕らがどう逆転して勝ち上がったかは誰も気にしていなかった。僕はそれで良いと思っているし、気にしないよ」
ヨキッチは自分たちがどう戦うかだけに集中しており、それがどう見られ、どう評価されるかはさして気にしていない。2年連続でシーズンMVPになっても彼が変わらないのは、その考え方が大きいのだろう。それでも指揮官マローンは、自分が指導する選手たちの努力や成果が正当に評価されることを望んでいる。それは彼がビジネスライクなバスケコーチではなく、ナゲッツというファミリーの父親だからだ。
『バブル』のシーズンに大活躍した後、膝の大ケガでほぼ2シーズンを棒に振ったジャマール・マレーは、このプレーオフで完全復活を印象付けるプレーを見せている。それを本人以上に喜んでいるのがマローンだ。
「これはコーチと選手の関係じゃない。私はジャマールをただコーチしているんじゃなく、愛しているんだ。もう7年も一緒にいて、良い時も悪い時も経験している。膝のケガによるつらい日々も間近で見てきた。その彼がこのレベルでプレーしていることは、私にとって一人の人間として喜ばしいんだ」
ヨキッチとマレーだけでも強力だが、2人のエースを支えるサポートキャストも揃い、マローンの下で強く結束しているのが今のナゲッツだ。ナゲッツが素晴らしいチームであることはプレーオフの試合をこなすごとに認知されているが、マローンが納得できるレベルに達するには、まだまだ勝たなければいけないだろう。