エリック・スポールストラ

「何かをやり直すにはとても多くのエネルギーと時間を必要とする」

今シーズンのNBAも残すはカンファレンスファイナル、ファイナルのみとシーズンも最終盤となっている。すでに多くのチームが来シーズンに向けて動いている中、ここまで目立つのは実績十分のヘッドコーチの交代劇だ。

バックスのマイク・ブーデンフォルツァーは2018-19シーズン、ラプターズのニック・ナースは2019−20シーズン、サンズのモンティ・ウィリアムズは昨シーズンにそれぞれ最優秀コーチ賞に選出されたが、彼らは指揮官の座を追われている。

ラプターズに関しては過去3シーズンでプレーオフ進出1回、それも1回戦敗退に終わっていることを考えれば、ナースが去ることは一つのサイクルの終焉として納得はできる。だが、ブーデンフォルツァーの場合は2020-21シーズンにNBA王者へと導き、今シーズンはプレーオフ1回戦で敗れたものの、レギュラーシーズンでは第1シードの成績を残した。またモンティも一昨年にファイナル進出、昨シーズンは第1シードの64勝に導き、今シーズンも故障者続出のチームを第4シードでプレーオフに導く手腕を発揮した。モンティに至っては昨夏に複数年の契約延長を結んでいたにも関わらず解雇されてしまった。

ヒートの指揮官、エリック・スポールストラはすぐにコーチを変えてしまう風潮に異議を唱えている。「職を失ってしまった、偉大で実力を証明している経験豊富なコーチたちのことを考えている。これは私にとって合理的とは思えない。実績があり、チームの文化を刷新することなく再出発できる機会があるのにそれをしない。何かをやり直すのは、とても多くのエネルギーと時間を必要とする」

スポールストラは今シーズンで15年目と長期政権を築いている。そして彼の下、今回で通算7度目のカンファレンスファイナル進出となるが、これはフィル・ジャクソン(14回)、パット・ライリー(12回)、グレッグ・ポポビッチ(10回)に次ぐ歴代4位の見事な記録だ。

ただ、この15年間、スポールストラもずっと順風満帆だった訳ではない。2016-17シーズンから3年間の内、ポストシーズンに進めたのは1度のみと苦しい時期もあった。しかし、ここで指揮官を交代せず、体制を維持することで再び上昇気流に乗った。

スポールストラはこの継続性の大切さを説いた。「これこそ、私たちが何度もチームを立て直せている理由だ。なぜなら私たちは新しい文化を導入してみんなに教えた後、2年、3年が経って突然、誰かが同じことをすることはないからだ。特に今回の実績あるベテランコーチが解雇されていることには驚いている」

世界一のリーグとして激しい生存競争が行われているNBAにおいては、選手だけでなくコーチの立場も一寸先は闇の不安定なもの。しかし、スポールストラが示すように一貫した体制の構築こそが、常勝軍団を築くために必要な要素となるはずだ。