篠山「つらいことのほうが多かった」
Full throttle(フルスロットル)。練習も試合も全力で取り組み、優勝を目指す−−。川崎ブレイブサンダースはそんな想いが込められたスローガンとともに今シーズンに入った。しかし、再び、厳しい現実がこのチームに覆いかぶさった。
5月14日、チャンピオンシップクォーターファイナル第2戦に臨んだ川崎は、横浜ビー・コルセアーズに104-84と大敗。連敗を喫し、2022-23シーズンを終えた。
マット・ジャニング(左太ももの肉離れ)、マイケル・ヤングジュニア(シーズン終盤に右手を負傷)が故障で不在だった川崎は、前日に太ももを痛めたジョーダン・ヒースをも欠き、実質帰化選手のニック・ファジーカスと日本人の9選手(ジャニングは登録されていたが2試合とも出場はなかった)だけでプレーせざるを得なかった。フルスロットルで行きたくとも行きようがない。手負いの状況は、痛々しいという言葉を超えていた。
「つらいことのほうが多かった。最後もそのシーズンを象徴するようにアクシデントがあって、人数が揃わない中で今日は9人で臨むことになりました」。試合終了後のコート上でのインタビューで、ベテランポイントガードの篠山竜青はそう語った。メディアとの対応ではロッカールームに感情を置いてくるという彼も、敗戦直後のこのタイミングでは悔しさを押し殺して、気丈にファンへの感謝を述べたように見えた。
昨年10月のシーズン開幕戦で先発シューティングガードのジャニングが右太ももの肉離れを引き起こし、そこから戦列を離れたところからチームの苦悩は始まった。負傷者が常に出ているような状況だった。また、週末の2連戦を連勝で終えることもなかなかできず、とりわけシーズン前半は格下と思われた相手にも星を取りこぼすことが多かった。
結果、シーズンでの最長の連勝は8。週末の連勝は8度のみ。千葉ジェッツがリーグ新記録の24勝を挙げたことなどと比べると、やはり見劣りしたと言わざるを得ない。勝率は昨シーズンの7割6分4厘(42勝13敗)から6割6分7厘(40勝20敗)へと下げた。平均得点はB1トップだった88.2から5.7ポイントも下がり、失点は1.3ポイント増えた。
佐藤ヘッドコーチ「全員が揃って試合をさせてあげられなかったところは自分の責任」
ケガはフィジカルな攻防も多いバスケットボールという競技にはつきもので、川崎だけに起こることではない。それを前提に、今シーズンの反省として川崎の佐藤賢次ヘッドコーチは敗戦後の会見で次のように述べている。
「全員が揃って制限もなくできた試合って、60試合中の18試合くらいしかないんです。そのうち負けた試合は4試合しかないですけど、まず、先ほど選手にはそこを謝りました。全員が揃って試合をさせてあげられなかったところは、現場をマネジメントしている自分の責任なので。そこが今シーズン一番、苦しかったところだと思います」
全員が揃った数少ない試合で負けたのは4試合しかない、というのが佐藤ヘッドコーチの無念と矜持を表している。手持ちの手札がすべて目の前にあったならもっとできたはずなのに、といったところか。
常勝と言われながらBリーグ初年度の2016-17以来のファイナル進出が実現できていないことについて、チームに足りないところは何かと問うと、昨シーズンのMVPである藤井祐眞は「いや、もう優勝する力はあると思っています」と語ったが、こう言葉を続けた。
「ただ、今シーズン苦労してきた中で、ケガ人が出た時にも誰かしらステップアップしたり、そこを補っていかなきゃいけないところがなかなかうまくいかず、噛み合わないところが多く、そこで成長ができませんでした。チャンピオンシップで勝つためにはこういうアクシデントがある、ないに関わらず勝ち進まなければ優勝はできないので、やらなければいけないところ、それができませんでした」
「シーズン中から、ニック(・ファジーカス)が中心選手なので、アクシデントで誰かが抜けた時に彼や外国籍選手に頼ってしまいました。今シーズンは1人ひとりがリーダーシップを発揮するために全員がキャプテンというコンセプトでやってきた中でそれができなかったというところは、僕らが優勝するためには必要なところなのかなと思います」
藤井が言うようにファジーカスへの負担は大きくなってしまい、37歳にも関わらず、彼の今シーズンの平均出場時間は前年より2分以上も長くなってしまった。故障者がいたために仕方のない面もあるが、そこを彼以外でカバーすることができなかった。
佐藤ヘッドコーチはコート上での選手間でのコミュニケーションについて「誰がハドルのきっかけを作るのかとかもチャレンジだったんですけど、前半戦はそういうのがなく人任せになっていて、みんなそっぽを向いているような時もあった」と振り返った。後半はそこが改善していったとはしたものの、全員をキャプテンとしながらそういった課題があったというのは、本末転倒ではなかったか。
先述の通り、川崎はリーグ初年度にファイナルへ進んでいるが、その後のポストシーズンでは、宇都宮ブレックスにアウェーで2度、完膚なきまでに叩き潰され、ホームコートで戦う権利を得た昨シーズンも再び宇都宮にスイープされるなど、勝負弱さを露呈し続けている。 ファジーカス、篠山、藤井、長谷川技ら長年チームを支えてきた選手たちはいずれも30歳台だということもある。来シーズン、このチームが再度優勝へ挑戦していくとすれば、若手の台頭を含めた改革は必須のように感じられる。
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