ヤニス・アデトクンボ

突如として決まり始めたヒートの3ポイントシュートに成す術なし

バックスは1位シードにもかかわらずファーストラウンドで敗れました。悔しい敗退を喫してもなおグッドルーザーだったヤニス・アデトクンボはこう語りました。「スポーツにおいて失敗はない。良い日もあれば、悪い日もあるだけだ。成功を収められる日もあれば、そうではない日もある。ある時はうまくいくし、そうではない日もある。いつも勝者にはなれない。今年は他のチームが勝つ時だったんだ」

しかし、失敗ではなくとも『ディフェンスの崩壊』がアップセットを食らった要因であることは事実です。

シーズンでリーグ最少の109.5得点のヒートがシリーズを通して平均124得点を挙げたことは、アップセット以上の驚きです。ロースコアの我慢勝負に持ち込んで接戦を制するのがヒートの勝ち筋だと予想されましたが、平均37.6得点を奪ったジミー・バトラーの爆発に加えて、シーズンでリーグ27位だった3ポイントシュート成功率が驚異の45.0%と決まりに決まり、点の取り合いで打ち勝ちました。

今シーズンのバックスは地味ながらも粘り強く守れるロールプレイヤーを揃え、明確にディフェンス中心の戦いをしてきました。3ポイントシュートを中心にしたオフェンスシステムは変わらなかったものの、クリス・ミドルトンの離脱が長かったこともあり、常にディフェンス優先の選手起用でリーグ最高勝率を収めました。ディフェンスはこれまでペイント内を封鎖してイージーシュートを打たせず、確実なリバウンドの回収を狙い、3ポイントシュートを打たれるのは許容していましたが、今シーズンはアウトサイドでも積極的にプレッシャーを掛け、3ポイントシュートの被アテンプトを昨シーズンよりも6.5本も減らしました。

ヒートが苦手なはずのオフェンスが、バックスの長所であるディフェンスを打ち破り、しかもヒートが苦手としてバックスが自信を深めた3ポイントシュートを巡る攻防がカギとなって、シーズンとは真逆の結果がもたらされた『奇妙なシリーズ』となったのです。

バックスにとって戦略ミスがあったとすれば、それはバム・アデバヨをフリーにしたことです。アデバヨをあえて空けてシュートを促す形は2年前のプレーオフで成功した戦略でしたが、今回のアデバヨは起点役となり、彼のパスからチームメートの3ポイントシュートが55%と高確率で決まりました。ハンドオフからスクリーナーとしても機能するアデバヨが2on1のシチュエーションを作ったことが、3ポイントシュートの高確率の要因となりました。

予想外の出来事としてダンカン・ロビンソンが19本中14本(74%)と高確率で決めたことが、シリーズを大きく変えた印象もあります。ロビンソンはタイラー・ヒーローのケガにより出番を得ましたが、ヒーロー離脱の影響でアウトサイドに動き回るスペースが広がったこともあり、得意のオフボールムーブからの3ポイントシュートが復活しました。

ロビンソンが厄介なのは長い距離を走っても高確率で決めることで、単に確率の良いシューターならば起点役となるパサーを潰す選択肢もありますが、ロビンソンが相手だとオフボールムーブそのものを止めなければ、アデバヨのハンドオフスクリーンもあって好きに打たれてしまいます。その結果、バックスはコーナーにいるロビンソンにも密着して守ることとなり、ヒートに広いスペースを与えることになってしまいました。

何よりもバトラーがシーズンでは1.6本しか打たなかった3ポイントシュートを5.4本も打ち、しかも44%と高確率で決めたことは、距離を空けてドライブ優先で守る対応をしていたバックスのディフェンスプランを崩壊させました。試合を重ねるにつれ焦点を絞れなくなったバックスディフェンスは、裏のスペースにパスを通されることも増え、最後まで立て直せませんでした。スポーツに失敗はないといっても、自信があるはずのディフェンスが崩壊したことは、シーズンの幕切れとしては寂しいものがありました。

予想外の理由があったとはいえ、シーズンだけでなくプレーイン・トーナメントでも決まらなかったヒートの3ポイントシュートが突如として決まりに決まったことは、偶然なのか必然なのか判断に迷います。ゲイブ・ビンセント、ケイレブ・マーティン、ケビン・ラブ、マックス・ストゥルースの成功率も40%を超え、『全員が好調』という異様なシリーズでした。ヒーローに加えてビクター・オラディポも離脱し、個人技から得点する選手が減った厳しさはありますが、チームオフェンスからの3ポイントシュートが決まり続けるならば、第8シードからの快進撃は続くはずです。