ニック・ナースはロケッツのヘッドコーチ候補に
ラプターズはニック・ナースを解任した。
ラプターズは41勝41敗で東カンファレンス10位となり、プレーイン・トーナメントでブルズに敗れてシーズンを終えたのだから、解任という選択はおかしなものではない。しかし今回の解任は、結果ではなく内容から決まったものだ。
今シーズンのラプターズは、ナースが率いた過去4年とは全く違うチームだった。ナースお得意の組織的なディフェンスが崩れ、そこからのトランジションが生まれず、個人技で押すバスケになった。チームとしてのまとまりを欠いたことで『ラプターズらしさ』が消えていた。
指揮官ナースもおそらくモチベーションを保てずにいた。レギュラーシーズンでまだ数試合を残し、チームがプレーオフ進出の可能性がある時点で彼は「10年やってきたのだから、いろいろと見直すつもりだ」と発言。時を同じくしてロケッツの新ヘッドコーチ候補に名前が挙がっており、シーズンの重要な時期に無責任な発言をしたとして地元メディアが反発。チームがバラバラな状態でシーズンを終えることになった。
マサイ・ウジリ球団社長は現地4月21日にシーズン終了の会見を予定しており、その数時間前に『ESPN』のアドリアン・ヴォジロナウスキがナース解任をスクープした。会見でのウジリはナース個人の責任を問うことなく、解任の理由を「今シーズンは『ラプターズらしさ』を欠いた」と語った。
「プレーイン・トーナメントのブルズ戦は今シーズンのチームの悪いところを象徴する試合だった。チームとしての一体感がなく、勢いがない。これは誰か一人の責任ではないし、ニックに責任を押し付けるつもりはない。全員に責任があり、私にも責任がある」
チームのまとまりを欠いた点についてウジリは「選手たちはニックのためにプレーしなくなった。何人かは彼を信じていたが、選手がコーチを信頼していなければ、上手くいくはずがない」とコメントしている。
ナースは2013年の夏に、ドウェイン・ケーシーのアシスタントコーチとしてラプターズに加わり、6年目にケーシー退任に伴いヘッドコーチに昇格。その1年目に球団史上初のNBA優勝を成し遂げた。優勝の立役者となったカワイ・レナードは1年限りで退団、『チームの顔』だったカイル・ラウリーも放出する中で、コロナの影響でホームで試合ができずにタンパを本拠地としたシーズンはタンクしたものの、成績の浮き沈みはあっても『ラプターズらしさ』は常に明確だった。それが消えた時点で、ナースのラプターズは終焉を迎えた。
ヘッドコーチ交代はラプターズ改革の第一手であり、このオフは過去にない多くの変化がありそうだ。フレッド・バンブリート、ギャリー・トレントJr.とヤコブ・パートルはフリーエージェントになる。パスカル・シアカムもチーム再建のためトレードに出されるかもしれない。立場が保証されるのは2年目のシーズンを終えた21歳のスコッティ・バーンズだけ。彼についてはウジリが「タンパのシーズンから得た唯一無二の存在なんだ。彼には学び、成熟するための時間を与える」と明言している。
ただ、まずはニック・ナースという大きな穴を埋めなければならない。ウジリは有能なフロントとして、選手の入れ替えについては時に慎重に時に大胆な舵取りで数多くの結果を出してきたが、ことヘッドコーチ人事ではラプターズでの10年間でナースを内部昇格させただけ。ナースのバスケを引き継ぐにせよ、全く新しいスタイルを目指すにせよ、偉大なヘッドコーチの後任選びは相当難しいものになるはずだ。