クイン・スナイダー&トレイ・ヤング

トレイ・ヤング頼みから方針転換、ヒート対策も完璧にハマる

1年前のプレーオフで敗れたヒートへの雪辱を果たし、第7シードを手に入れたホークス。『作戦勝ち』と評すべき見事なゲームプランでの勝利でしたが、規律と連携を欠いてチーム崩壊の危機にあった今シーズンのホークスが、チーム全体で『ゲームプラン通りに戦えた』こと自体が驚きでした。

ヒートが強烈なプレッシャーをか掛ける『トレイ・ヤング潰し』が予想される中、ヤングは自ら強引に仕掛けることなく、簡単にパスを捌いてはウイング陣に3ポイントシュートを打たせていきました。そこには強力なディフェンダーであるバム・アデバヨをアウトサイドに誘い出す狙いもあり、序盤はホークスのアウトサイドが目立ちました。

ところが、アデバヨがベンチに下がると一転してインサイドを攻めます。控えセンターとして出てきたケビン・ラブがコートにいた3分間で、ヒートは15もの失点を重ね、後半はラブにプレータイムは与えられませんでした。ホークスはシーズン平均30.5本しか3ポイントシュートを打っていませんが、この試合は前半だけで25本も放ってアデバヨ対策を実行し、アデバヨが下がればゴール下を攻める変化は見事でした。

またジミー・バトラーに対してはデジャンテ・マレーやディアンドレ・ハンターではなく、ジョン・コリンズをマッチアップさせ、フィジカルなドライブアタックを封じ込め、フィールドゴール成功率32%に抑え込みました。バトラーお得意のファウルドローもコリンズは試合を通して1回しか許さず、常に冷静に対処していきました。

苦しいヒートがバトラーとアデバヨのプレータイムが伸びた一方で、ホークスは良いディフェンスをしたコリンズにこだわることなく次々と選手を交代させたのも印象的でした。ウイングとビッグは常にフレッシュで運動能力の高い選手が登場し、後半になると疲労の色が見えたヒートに対してハードワークで上回り、22本ものオフェンスリバウンドを奪っています。

シーズン中と違い、対戦相手を研究して対策を講じるのは普通のことではありますが、この試合のホークスのように特定の選手を活用するのではなく、チーム全体で対応していくのは簡単ではありません。25得点を奪ったヤングを筆頭に7人が2桁得点というバランスの良さでしたが、そもそも今シーズンのホークスはヤングとマレーの個人技中心のオフェンスが機能せずに苦しんできました。それがヘッドコーチ交代からわずか20試合で見違えるようなチームになったのです。

クイン・スナイダー就任から、ヤングとマレーの得点は減りながらチームの得点は大幅に向上し、8人が2桁得点を記録するようになりました。しかし、勝敗に関して言えば期待されたほどは向上せず、バランスアタックをあきらめてヤングのスタームーブに頼ってもおかしくなかったのですが、スナイダーは目の前の勝敗に臆することなく、短期間でチームを作り直していきました。それが一発勝負のプレーイン・トーナメントで花開いたのです。

スナイダーになってからの変化を考えれば予想できた内容だった一方で、どこかでヤングが自制心を失って個人技アタックを繰り返す気もしていました。また、若い選手がアウェーのファウルコールに苛立ち、決まらないシュートに焦り、次々に策を打ってくるヒートのペースに飲み込まれるなど、メンタリティで負けることも十分に考えられました。

しかし、後半に怒涛の追い上げをくらい、カイル・ラウリーの止められない3ポイントシュートに苦しみながらも、ホークスは最後まで自分たちのプレーを、自分たちのゲームプランを貫き通しました。スナイダーは戦術的な変化だけでなく、個々のメンタリティも見事に変えたのです。シーズン終盤のヘッドコーチ交代という賭けはプレーオフ進出という結果を生み出したのでした。