相手に乱されることなく『自分たちの戦い方』を徹底できるか
プレーオフでの失敗からロスターを入れ替え続けてきたシクサーズは、MVP有力候補のジョエル・エンビードを擁して優勝を目指します。ファーストラウンドではジェームス・ハーデンが見限ったネッツとの対戦。それでもネッツはシーズン途中で大改革を断行し、ハーデンが去った1年前とは全く違うチームになりました。スターを揃えるのが正しいのか、チームの戦い方に忠実なハードワーカーを揃えるのが正しいのか、相反するロスター構成の対戦になります。
エンビードが得点王で、ハーデンがアシスト王。この2人のホットラインはシーズンを通して成熟されてきました。ハーデンを信じて走れば適切なパスが出てくることを理解したからか、エンビードはトランジションに参加する機会が増えるなど、得点力が向上しています。これまでプレーオフでのシクサーズは、守れていても点が取れずに負けてきましたが、ハーデンのゲームメークによりチーム全体にパスが供給されるようになったことが大きな強みとなっています。
トバイアス・ハリスやタイリース・マクシーが得点を積み上げ、ディアンソニー・メルトンやPJ・タッカーがディフェンスで貢献し、攻守それぞれの役割分担もなされており、プレーオフを戦い抜くための駒は揃っています。しかし、プレーオフになると戦い方が狂ってしまうのが今までのシクサーズでした。昨シーズンもハーデンをコーナーにおいてエンビードがアウトサイドからアイソレーションを仕掛けるなど、緊迫した状況になるほど役割分担を忘れてしまう『悪癖』を、今回は出さずにいられるでしょうか。
普通に考えれば攻守に上回るシクサーズが勝ち抜くと予想されますが、ネッツがアップセットを起こすには、目の前にある得点差や1試合の勝敗よりも、7戦シリーズならではのメンタリティの戦いに持ち込めるかどうかがカギになります。
優れたディフェンダーを揃えるネッツはハーデンを個人で抑えられる選手が複数おり、過度なヘルプをせずに1on1を仕掛けさせ、たとえハーデンに決められてもアシストをさせないことが重要です。連携が良くなったシクサーズですが、オフェンスのほとんどはハーデンから始まっており、司令塔を抑えることはシクサーズ全体のリズムを乱すことに繋がります。特にエンビードへのパスを封じ込めば、ボールが欲しいエンビードがポジションバランスを崩してくることも多く、個人技一辺倒のオフェンスになりがちです。そうやってシクサーズの『悪癖』を引き出す巧みさがネッツには求められます。
ケビン・デュラントとカイリー・アービングを失ったネッツのオフェンスは破壊力を欠きます。ただその代わりに的が絞りにくく、それでいてシクサーズが苦手とするミドルレンジを多く用いてきます。エンビードが守るインサイドは固く見えますが、アウトサイドまで出てこないため、外のシュートからの攻略はしやすくなっています。実際、今シーズンのシクサーズは勝った試合と負けた試合ではミドルからの失点が5点近く違い、明確にディフェンスの弱点になっているのです。
スーパースターのいなくなったネッツだからこそ、相手の嫌がることを突いていくことが重要です。同時にシクサーズは自分たちから崩れることの多いチームでもあります。そういう意味でネッツが付け入る隙は決して小さくはありません。
ところがネッツはチームとしての成熟度に課題を抱え、オールスター以降の23試合中5試合で前半で2桁のビハインドを背負うなどゲームプランの失敗が多く、相手の弱点を突くのが上手いわけではありません。
同じ相手と戦うプレーオフのシリーズはスカウティングとアジャストの戦いですが、両チームにとっては相手に乱されることなく『自分たちの戦い方』を徹底できるかが重要です。シクサーズからすると相性的には嫌な相手ではありますが、チーム力の差は明確なだけに、落ち着いた戦いで楽に突破したいところです。