秘蔵映像たっぷりで解き明かす、2004年の惨敗から2008年の栄冠まで
先にご紹介した『HUSTLE』では胸アツになっていただけたでしょうか。フリースローは1本決めて当たり前、2本目も決めたら偉い、というバスケ界のことわざ通り(そんなのあったっけ?)、次もスパッと決めていきたいと思います。2本目にご紹介するのは、またもNETFLIX映画の『リディームチーム』です。
NETFLIXの紹介文は以下の通り。「2004年、アテネ五輪で惨敗したバスケットボール男子アメリカ代表チーム。2008年の北京五輪での金メダル奪還を絶対的使命として課された選手たちの軌跡を追う」
リディーム(redeem)とは「挽回する、回復する」という意味。アテネオリンピックでアメリカの男子バスケットボール代表チームは惨敗を喫します。『世界最強』の呼び名を返上しなければならない状況で、名誉挽回のためのチームが作られ、2008年の北京オリンピックに挑むまでのストーリーです。
かつてのコミッショナーが「素晴らしいアメリカの製品ができました。世界に売り込みたい」と語ったように、バスケのアメリカ代表は世界でナンバーワンにしてオンリーワン、金メダルを取って当然の『ドリームチーム』でした。
そのアメリカに、2004年に何が起きたのか。チームとその周辺に慢心があったのは間違いありませんが、自分たちの実力への揺るぎない自信は強さの根源のはずでした。ただイラク戦争が始まった翌年、アテネでのオリンピック開催に安全上の懸念があるとされた状況で、1996年のアトランタ大会、2000年のシドニー大会のメンバーが参加を望まず、NBAのルーキーシーズンを終えたばかりのレブロン・ジェームズを始めとする若手を加えてチームを編成しましたが、士気は上がりませんでした。
大会初戦でプエルトリコに敗れて『クリームチーム』(ボロ負けチーム)と言われた時点で気が付くべきでしたが、ベテランと若手が分断したチームは立ち直ることができず、準決勝でアルゼンチンに敗れて3位に終わり、国中の批判を浴びました。カーメロ・アンソニー(現在ver.)は「俺たちはただ集められて放り出された。金メダルを取ってこいと。アメリカ代表にチームワークは全くなかった」と証言しますが、プエルトリコに負けた時点で敗因を問われたカーメロ(2004年Ver.)は「俺は出てないから分からない」とベテラン中心の起用法に文句を付けており、彼もまたチームワークを発揮できていません。
レブロン「1カ月家族と離れてる。でも別の家族ができた」
と、ここまでが『クリーム』パート。1時間38分の作品のだいたい20分ほどで、そこから先はアツい『リディーム』パートになります。体制を一新して再出発しますが、慢心から負けて自信が揺らいだチームはそう簡単には勝てません。2006年の世界選手権(舞台は日本!)でチームは再び屈辱を味わいます。
2004年の敗北が多くの批判を呼んだのは、負けただけが原因ではなく、プロフェッショナル精神を欠き、国を代表する気概を持たない姿勢が人々の反発を招いたからです。アメリカ代表は勝利よりも先に、精神面を立て直さなければいけませんでした。そこでポイントとなるのは、2004年には破滅的だったチームワーク。寄せ集めの戦力を代表としてどう結束させるのか。コーチKの手腕はなかなか興味深いです。
そして、ベテランと若手との融合も一つの大きなテーマでした。その両者の象徴的存在となったのがコービー・ブライアントとレブロン・ジェームズです。
勝ちに飽きたベテランが寄り付かない代表チームにコービーはやって来ます。「負ける姿は見飽きた」、「取り戻したい」、「アメリカが最強だと世界に証明したい」というのがその理由。ですがコービーは人と打ち解けられない一匹狼で、NBAに友達は一人もいません。彼は誰も受け入れず、誰も彼を受け入れない。それではチームワークは生まれませんが、それが彼のNBAでのやり方でした。
ただ、そのバスケへの情熱は他の選手たちに影響を与えます。ラスベガスでの合宿中、クラブで夜通し遊んで明け方にホテルに戻って来た選手たちは、練習に出掛けようとするコービーと鉢合わせます。次の日からレブロンとウェイドが同じ時間に練習を始めるようになり、これに加わる選手が『ドミノ効果』で増えていきます。
これだけでは息苦しかったであろうところに変化を加えたのが、若きレブロンでした。周囲から「コービーかレブロンか」との目線が向けられる状況で、レブロンは敵対関係になるのを避け、ユーモアで絆を築こうとします。コート上でもコート外でもジョークを言い続け、笑いの輪の中にコービーを巻き込んでいく。ここのレブロンはマジ偉大。ひたすらストイックで勝つためならどんな犠牲も厭わなかったマイケル・ジョーダンやコービーとは違う新世紀のリーダーシップを発揮して、コービーも含めてチームを作っていく様子が映像で確認できます。
2人が並んでソファに座り、コービーが「同じ情熱を持っているが、見せ方が違う」と語れば、レブロンは「この組み合わせは相手にしたら厄介だ」と言います。もうこの時点で金メダル確定です。この2人が心を通い合わせ、残りのメンバーも含めたタレントがチームとして一つにまとまったら、そりゃ負けるわけがないんですもん。
コービー「その瞬間を満喫する、楽しむ」
そうして迎えた北京オリンピックのアメリカ男子バスケットボール代表チームの顔ぶれは以下の通り。
4 カルロス・ブーザー
5 ジェイソン・キッド
6 レブロン・ジェームズ
7 デロン・ウィリアムズ
8 マイケル・レッド
9 ドウェイン・ウェイド
10 コービー・ブライアント
11 ドワイト・ハワード
12 クリス・ボッシュ
13 クリス・ポール
14 テイショーン・プリンス
15 カーメロ・アンソニー
北京オリンピックでの『リディームチーム』の戦いぶりは是非映像でご確認いただきたい。オフィシャルの映像で一番面白いのはコービーvsパウ・ガソルの対決です。それとは別に、国際オリンピック委員会が運営するスタジオによる作品ならではのチームの裏側の映像がたくさんあるのですが、その中でも最もグッとくるのが、チームディナーでのコービー30歳の誕生日祝いのシーンです。エンドロールもチーム内の誰かがハンディカムを回していたであろう秘蔵プライベート映像集で、最後まで見どころたっぷりです。
コービーの勝利への執着心、そしてレブロンの周囲を巻き込むポジティブな力。どっちか一つでも映画として十分に成り立つパンチの強さがありますが、それが融合した『リディームチーム』、バスケファンなら必見であります。