ケルドン・ジョンソン

ゼロベースではなく堅実な再建、エースの系譜を引き継ぐ選手を待つ

シーズン終了を待たずにプレーオフ進出の望みが断たれたスパーズですが、昨シーズンから今シーズンのトレードデッドラインにかけてデリック・ホワイト、デジャンテ・マレー、ヤコブ・パートルら主力選手を放出しており、実質的な再建1年目だと考えれば、一定の評価ができるシーズンでした。2年目のジョシュ・プリモを解雇するという予想外のアクシデントもありましたが、若手の成長と新しいチーム作りに向けて様々な変化がありました。

ここ数シーズンはガードが多く並べながら、ポジションの概念は強く残っており、プレーメークの中心だったマレーとパートルは2人でチーム全体の4割近くのパスを出しており、役割分担は明確でした。それが今シーズンは2人が抜けてもチームのパス数は変わらず、流動的にポジションチェンジを行い、多くの選手がボールムーブに絡む形が作れています。個人能力が足りないために得点力は低いものの、チームとしてリーグ5位の27アシストを記録していることは一つの成果です。

3年目のデビン・バッセルがオフボールムーブからのキャッチ&シュートを増やし、平均18.8得点と成長を見せましたが、欠場が多く安定感を欠きました。その一方で4年目のケルドン・ジョンソンは3ポイントシュートの成功率を落としたものの、21.8得点とエースとしての仕事ができるようになっています。

再建の場合、既存の選手を放出し、ドラフトで若手を集めてゼロベースで構築するケースも多いですが、このケースは失敗すると低迷が長びくため、スパーズは堅実な方法を選びました。ヴァッセルとケルドンを中心にトレイ・ジョーンズやザック・コリンズら20代半ばの選手で戦術のベースを固め、ドラフト指名した有望株をエースとして育てていくことになります。

そんな中でジェレミー・ソーハンが粗削りながらも未来を感じさせるプレーを見せ、マラカイ・ブランナムも23試合でスターターを務めるなど、ともにエースタイプではないもののルーキーも様々な役割をこなしています。

ソーハンはスパーズにいなかったインサイドのプレーメーカーとして機能するだけでなく、オフェンスでは精度は低くとも多彩なスキルを使って多様性をもたらし、本能むき出しのディフェンスでどんな相手にも食らいつきました。スパーズらしくない粗削りさは、むしろチームに足りなかったエネルギーを充填してくれているようであり、さらなる成長が楽しみな選手です。

逆にブランナムはスパーズらしいクレバーなプレーを見せてくれました。もともとはシュータータイプのウイングでしたが、チーム事情からポイントガード役まで務めることになり、チームオフェンスを組み立てました。シュート精度には苦しんだものの、ウイングスパンとフィジカルの強みを生かしたディフェンスやドライブを持ち、無理のないプレーをチョイスしていく冷静さはチームカラーに合っています。

低迷したシーズンを成功とは言えませんが、ポジションに関係なく流動的に動いていく戦術の中で、若手の成長を引き出しており、十分に前を向けるシーズンでした。トレードで未来のドラフト指名権も手に入れており、今シーズンの戦い方をベースにしながら新たな才能を加えていくことでチームとしても成長していけるはずです。

デビッド・ロビンソンの時代にティム・ダンカンを指名し、ダンカンの時代が終わる前にカワイ・レナードを手に入れるなど、スパーズは長きに渡って再建らしい再建を経験してきませんでした。今シーズンはダンカンを指名することになった1997年以来の低い勝率で終わることになります。一番欲しいポジションは層の薄いビッグマンであり、ビクター・ウェンバニャマを指名し、スパーズのエースの系譜を引き継がせたいところでしょう。