「すべての世代は違っている。それを認識し変化に適応していく姿勢が重要なんだ」
アメリカ代表のマネージングディレクターに就任したグラント・ヒルは、代表選考について従来に比べて柔軟性な姿勢を打ち出している。ヒルの前任であるジェリー・コランジェロは、代表候補たちに複数年に渡る代表活動への参加の確約を求めていた。
しかし、ヒルは今夏に日本、フィリピン、インドネシアで行われるワールドカップ2023、来年のパリ五輪に向け「五輪でプレーしたければ、代表チームにいなければならないといった確約は必要ない」と語る。「何故、こういったものがあったのかは理解できるし、その方針によって大きな成功を収めることができた。しかし、我々はこの部分で変化を起こさないといけないと感じている。だからトライアウトもないし、確約も求めない」
すでにこの新しい方針は、東京五輪において新型コロナウィルス感染対策による行動制限に対処するため導入されている。五輪前には代表合宿に呼ばれた後でメンバー落選となる公式なカットは行われなかった。また、パンデミックが収まった後の昨夏、アメリカ代表はワールドカップ、五輪の主要大会がない時に実施していた代表活動への参加要請を取りやめている。そして昨夏にアメリカ代表の活動はなかった。
NBAでの過酷なスケジュールの後で代表活動に参加するのは、当然のように選手にとって心身ともに大きな負担となる。また、代表への前向きな意向を表明するもいざNBAのシーズンが終われば休養優先で代表参加を取りやめたり、フリーエージェントになることで契約に大きな影響を及ぼす故障のリスクを避けるため代表活動を見送るケースも珍しくなかった。
こういった理由から代表活動への確約を求め、それに応じた選手たちでチーム作りを行うのは計算が立ちやすい。だが、それ故に選手の選択肢が狭まるマイナス面もあった。その結果、各選手にとって引き続き大きな魅力となっている五輪ならまだしも、優先順位の低いワールドカップでは前回の2019年大会のようにオールスターレベルの選手が次々と参加を見送る状況に陥った。
1994年にドラフト全体3位でピストンズに入団したヒルはマジック、サンズなどで活躍。度重なる故障に苦しみながら7度のオールスター選出を誇り、リーグ屈指のオールラウンダーとして一時代を築いた。現役時代から聡明な人物として高い評価を受けていたヒルは、次のように語る。
「時代に適応していかなければならない。NBAを見ると大きく変化している。私が引退した2013年からも変わっている。すべての世代は違っている。特に私たちのような指導者であり、アメリカバスケットボール協会はそれを認識し、その変化に適応していく姿勢が重要なんだ」
世代の違いを受け入れるヒルの下、まずは今夏のワールドカップでアメリカ代表がどんなメンバー構成になるのか楽しみだ。