谷口大智

「プロフェッショナルとして一人ひとりが責任を持ってやっています」

島根スサノオマジックに加入して1年目ながら、谷口はディフェンスと同様に、オフェンス面でも明確な役割を与えられている。谷口の言葉を聞くと、シーズン終盤に向けてまだまだチームには伸び代があるように思えてくる。「昨シーズンに所属した茨城ロボッツでは『自分のリズムであれば全て打っていい』というルールがありましたが、今シーズンは一段階レベルが上がって、チームのシステムの中で打つというの求められています。今は頭の中でそれを考えながら打っている部分もあるので、それがまだ結果に繋がっていないです。今後は、考えすぎずに打てるようにして、成功率を上げることを徹底してやろうと思います」

島根は昨シーズンに初のチャンピオンシップ進出を成し遂げたが、チームとしてもブースターとしても目指す場所はもっと上にある。リードを許す苦しい展開であっても、辛抱強く戦いカムバックする姿がチームの強さを物語っているが、谷口もチームの状態をこのように話す。

「プロフェッショナルなチームで素晴らしいです。あれだけ試合に出場しているのに試合後でも本気でシューティングしているニック・ケイがいて、リード・トラビスも毎日のように自主練習とウエイトトレーニングをして、ペリンも自分のリズムを崩さずにプロとしての姿勢を毎日チームメートに見せてくれています。毎日一緒にいるような極端な仲の良さはないですけど、馴れ合いではなくプロフェッショナルとして一人ひとりがチームとの関わり方を意識しながら、やるべきことを責任を持ってやっています。このチームは誰でも得点できるし誰でも流れを作れる個の力がありますが、全員が共通意識を持ってやっているので、何をしていいか分からなるということがありません」

白濱やトラビスの欠場が続く時期も長かったが、それを理由にせずそれぞれがやるべきことを全うした結果が現在の順位に直結しているのが谷口の言葉からもわかる。

谷口大智

「バスケに使う時間以外の時間を無駄にしたくない」

島根は2月12日に行われたA東京戦でホームコートの松江市総合体育館にクラブ史上最多となる4,214人の観客を動員した。詰めかけたブースターの多くがメガホンを叩く光景は圧巻であり、選手の後押しになっていたことは間違いない。

谷口も超満員の会場について「気持ちいいですよね(笑)。ブースターの皆さんが相手のフリースローを外させてくれたと思っています。試合前のシューティングのシュートが入るだけで全力でメガホンを叩いてくれる人がいるくらいですから選手としてはうれしいです。声出し応援も解禁されたので、もっともっと乗ってきて欲しいですね」と話す。

その言葉の通り、終盤の相手のフリースローの時に観客席に向かってブーイングを煽る谷口の姿が見られた。谷口の煽りを見てブースターのメガホンの音が一段階大きくなったのを感じた。持ち前の明るいキャラクターでブースターからもチームメートからも愛されている谷口だが、その役割も自分で認識している。「どこに行ってもそうですよね。みんなを叱ったりピシッと締めるようなタイプではないことは自分でも分かっているので、帰化選手のニカを除くと日本人選手では一番年上ではありますが、自分が率先して盛り上げるというのは毎回意識しています。チームの流れが良い時は黙っていてもベンチやお客さんは盛り上がってくれますが、そうでない時は自分で意識して盛り上げるようにしています」

YouTubeでの動画配信やオリジナルグッズの展開、最近では『WAN』というBリーガー初のNFTプロジェクトも立ち上げるなど、谷口はファンとの接点を積極的に増やしている。

「当然、コート上にいる時はバスケに集中して真剣ですけど、それ以外はこのままの谷口大智ですのでそれを応援してくれる人が多くてうれしいです。プロ選手がオフコートで何をしているかというのは大事だと思っています。自分みたいにキャリアを考えて動いている選手もたくさんいますし、限られた時間の中でできることは最大限やっていきたいと思って動いています」

プロスポーツ選手という職業上、選手として稼働できる期間は限られているため、キャリア形成は重要なトピックである。前例のないことに取り組んでいる谷口は後輩に道を作るパイオニアのような役割も考えている。「情報発信をやればいいと思う選手はたくさんいますよ。好きなことがあるのになんでSNSを使って発信しないのかなぁと。それが応援してもらえるきっかけになることもありますし。でも、誰かが先に行かないとみんな行けないんですよ。YouTubeを始めた時もNFTに関しても、正直良い声ばかりではないです。引退後のことなど、考えなければいけないことがたくさんある中で、バスケに使う時間以外の時間を無駄にしたくないというのが強いです。批判の声を聞いてへこむこともありますが、それ以上に応援してくれる人たちがたくさんいるので、頑張っています」

「選手が引退したらどういうキャリアを進んでいくのかをファンの皆さんにいずれ見せていきたいなと考えています。少しずつですがBリーガーが自分の好きなことや得意なジャンルでYouTubeを始めているのはうれしいです。TwitterやInstagramだけだと感じてもらえることが少ないと思うのでYouTubeって一番良い方法だなと。もちろん今はバスケットが最優先ですけど、現役のうちから先を見据えてファンの皆さんと良い関係を築いていければと思っています」

バスケットボール選手である以上、試合で良いパフォーマンスをすることが最重要だ。それでも、興行を行うプロチームに所属する選手という観点で見れば、お客さんを呼ぶことやファンに愛されることも同じくらい重要なことである。ファンに対するアプローチは選手それぞれで構わないが、元来のプロバスケットボール選手像にとらわれない谷口の活動は多くの選手にも影響を与えるだろう。実際に島根の会場でも谷口のタオルを掲げて応援しているブースターを多く見かけた。選手やクラブだけでなくファンを巻き込み、新しいムーブメントを作ろうとしている谷口の今後の活動を島根の試合同様に注目していきたい。