「個人的にそんなにポジティブな性格じゃないので」
栃木ブレックスは開幕から好調をキープし、ここまで17勝2敗とリーグトップの成績を残している。喜多川修平が開幕前に戦線離脱し、シーズン最後に間に合うかどうかという状況。さらには田臥勇太も最初の6試合に出場しただけで、その後は欠場が続いている。昨シーズンはスタートダッシュに失敗して立て直すのに苦労したが、それとは正反対の状況。安齋竜三ヘッドコーチ体制になって2シーズン目、チームとして積み上げたものがこの好成績を生み出した。
「開幕前からやれる手応えはあったか?」という質問を渡邉裕規にぶつけると、「いや、個人的にそんなにポジティブな性格じゃないので」と苦笑混じりの答えが返ってきた。「僕はうまく行かない想定を立てながらやるタイプ。試合中はポジティブにプレーしますが、考えごとはマイナス思考から入るんです。プレシーズンにチームとして合わせていく段階からものすごく良い感覚はありましたが、強敵揃いの東地区でここまでの成績を取れるとは思っていませんでした」
もちろん、主力の一人である喜多川が開幕を前に戦線離脱したことは少なからずショックな出来事だった。「もちろん僕からすると早く戻って来てほしいですし、戦力が誰一人欠けることなく戦いたいですから、シーズン前にやっぱり落胆せずにいられなかったところです。でも、そうは言ってもすぐに治るわけじゃないし、やるのは今いる選手です。この窮地でも結果を出せているのは評価できることだし、それは『チーム力』としか言えないです」
主力にケガ人が相次ぐ現状、負けても言い訳はできる。だが栃木は現実から逃げず『チーム力』で立ち向かった。「田臥さんが修平さんが、ってよく言われますが、僕たちはそう思っていません。現時点でこういう結果が出ているのは『チーム力』の成果以外の何物でもないです。僕らはボールを回してリバウンドを取って走って、誰も休むことなくディフェンスをして、現時点で誰かがこのチームを支えているわけじゃないです。だからその日によってヒーローが違います」
「悔しさを知っているし、忘れない」
「だからこそ」と渡邉は、この日に着ていたBリーグオールスターのジャージを指さして「今回こうやって選出されたのはうれしいです」と笑顔を見せる。
ファン投票で選出されたB.BLACKのスタメン5人のうち、田臥と渡邉、ジェフ・ギブス、ライアン・ロシターと4人を栃木勢が占めた。栃木は熱狂的なファンを抱えるが、リーグには他にも人気チームがある。それでも栃木から4人が選出されたことを渡邉は「成績もそうですけど、『チーム力』で戦っている姿が評価されたからこそだと思っています」と喜ぶ。
栃木がコート上でライバルを上回るのは、チーム一丸での戦いに加え、ディフェンスとリバウンドの強みがあるから。Bリーグ1年目を優勝した時も含め、それが栃木のバスケットボールの根幹となっている。田臥に代わる先発ポイントガードとして最前線からディフェンスを引っ張る渡邉は、このスタイルについて「ディフェンスに関してはプライドです」と言い切る。
「間違いなく言えるのは一人ひとりがプライドを持ってディフェンスしているし、それができなければチームのスタンダードになれないことです。ディフェンスができない選手は、いくらオフェンスで仕事をしてもマイナス面として見られるので、まずは根幹としてディフェンスをやらなければいけないってことです。他のチームがどうなのかは分かりませんが、終盤で僕たちが差を付けられるのはその部分だと思っています」
もう一つ、渡邉が指摘するのは『失敗の経験』だ。「チャンピオンになれなかった年は、そういうことができなくて負けています。ルーズボールだったりリバウンドだったりディフェンスにミスがあったり、そこができていないシーズンは勝てていません。だから『結局そこなんだな』って思うんです。その悔しさを知っているし、忘れないからできるんだと思います」
「シビアに勝ちにこだわらないといけない」
そこまで話すと、「うまく行かない想定を立てながらやる」という渡邉の一面が出てくる。「常勝チームじゃないですからね、僕たちは。それが根本にあって、下から積み上げていくんです。今出ているメンバーはみんなBリーグで優勝していますけど、昨シーズンの悔しい経験もあります」
「今も結果は出ていますが、もうちょっとシビアに勝ちにこだわらないといけないと思っています。ディフェンスが良い、リバウンドが強いと言ってもらえて、そこは素直にうれしいんですけど、優勝するまでは自信とプライドを持ちながらも『大丈夫だろう』みたいな楽観的な部分がちょっとでも出たら勝てなくなるので。そういう意識は誰一人欠けることなく共有していきたいと思っています」
代表戦と天皇杯による中断期間が終わってリーグが再開する。勝率トップを走る栃木は、ライバルからこれまで以上に警戒されるだろう。「これから強いチームと当たる回数が増えます。現時点で満足していないと言うか、ここからの結果が大事だと思っています。自分たちを過信してはいませんし、気を抜かずに当たりたいです」と表情を引き締めた。
コート上では強気でポジティブ、ド派手なクラッチプレーヤーとしての評価を確立している渡邉だが、バスケットボールに向き合う姿勢はこのように慎重で実直だ。その渡邉と同じように、スタートダッシュに成功した栃木に慢心はなく、リーグ中盤戦もプライドを持った戦いを継続してくれそうだ。今週末は琉球ゴールデンキングス、ミッドウィークにはアルバルク東京、そして来週末は中地区首位の新潟アルビレックスBBとのアウェーゲームと、強敵相手の試合が続く。栃木の真価が問われる1週間がやって来る。
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