「ファンの気持ちは分かるが、興奮しすぎるのはリスクなんだ」
キングスは今シーズンのサプライズチームだ。2005-06シーズンを最後に16シーズンに渡りプレーオフから遠ざかっているが、今は36勝25敗で西カンファレンスの3位に付け、4位のサンズに2.5ゲーム差、5位のウォリアーズに3.5ゲーム差を付けている。プレーイン・トーナメントを目指して開幕を迎えたチームが、プレーオフ進出の可能性を日に日に高めており、今ではプレーオフのファーストラウンドをホームで開催する4位以内も狙える位置にいる。現在も4連勝中とその勢いは衰えていない。
ディアロン・フォックスにドマンタス・サボニスと若きオールスターを擁しながら『万年再建中』だったキングスを『勝てるチーム』に変えたのは、今シーズンからヘッドコーチを務めるマイク・ブラウンだ。キャバリアーズとレイカーズで指揮を執った後、スティーブ・カーのアシスタントを6年間務めていた彼は、再びヘッドコーチとなり、奔放なオフェンスのチームに粘り強いディフェンスを植え付けた。
ブラウンはディフェンスを選手に要求するが、それはあくまで組織的な守備であり個人のハッスルではない。スティールを狙って失敗すれば数的不利となり相手にイージーシュートを許し、ブロックショットを外せばファウルになって相手に最も得点効率の良いフリースローを献上する。イチかバチかのギャンブルであるスティールやブロックを重視せず、適切なポジションを守り、相手のプレーを読むディフェンスを構築しようとしている。
「ギャンブルで得るスティールはあまり良いものじゃない。適切なポジションから奪うスティールこそが良いスティールだと考えている」とブラウンは言う。「良いポジションを取り、パスレーンに手を伸ばせばリスクなしでボールを奪える。ポジション・スティールが私の好きなプレーなんだ」
それが上手くハマったのが現地2月24日のクリッパーズ戦、ダブルオーバータイムの末に競り勝った試合だ。第4クォーター残り2分、7点を追い掛ける場面でルーキーのキーガン・マレーがスティールに成功。ポール・ジョージからラッセル・ウェストブルックへのパスは、マレー個人ではなくチームとして完全に予見していたオフェンスだった。マレーがスティールからそのままダンクを決めて試合の流れを変えたのを機に勢いを増したキングスは、土壇場で追い付き、オーバータイムでクリッパーズに競り勝った。
マレーに限らず、オフェンスを得意とする選手たちがディフェンスにも意識を向けるようになった。ブラウンは「これほど早くコンセプトを理解できたのは、選手たちがそれだけ努力したからだ」とチームへの称賛を惜しまない。
それでも、ベテランのハリソン・バーンズはブラウンの手腕をこう称える。「すごく細かいところまでこだわるけど、選手を乗せるのが上手い。試合でも練習でも少しでも良いことがあれば必ず褒める。彼は日々の練習に喜んで取り組んでいて、そのポジティブなエネルギーをみんなに分け与える。とても厳しいけど、笑顔でそれを実行できるコーチなんだ」
キングスにはもともとオフェンスの爆発力があり、粘り強いディフェンスができるようになったことで攻守が噛み合った。今回こそ、その勢いは本物に見える。しかしブラウンは「このチームは勝利への欲求が強すぎる。よほど気を付けていないと、それに巻き込まれてしまう」と言う。
「いつも言っているが、我々の戦いはマラソンだ。アップもあればダウンもある。5連勝するかもしれないが、5連敗するかもしれない。そのどちらであっても、興奮しすぎたり落ち込みすぎてはいけない。長年プレーオフで戦うことを願ってきたファンの気持ちは分かるが、興奮しすぎるのはリスクなんだ」