マーケル・フルツ

スタッツでは計れない価値をマジックにもたらす

著名ライターのビル・シモンズが自身のポッドキャスト番組で、マーケル・フルツとベン・シモンズについて「3年前、5年前にフルツがシモンズより優れた選手だと言えば、誰もが嘲笑しただろう。だが、今はフルツの方が優れた選手だ」と語ったのを機に、様々な場で2人が比較されている。

シモンズは2016年の、フルツは翌2017年のNBAドラフトでセブンティシクサーズに全体1位指名され、チーム再建の核になると期待された選手。それでも2人は紆余曲折を経てシクサーズを離れている。

シモンズはルーキーイヤーからフィジカルの強い大型ポイントガードとして、ジョエル・エンビードと並んで『チームの顔』となったが、4年目の2020-21シーズンに深刻なシュートスランプに陥り、それが相手チームに執拗に狙われたことで不調から抜け出せなくなった。チームとの関係も悪化し、NBAのトップスターへの仲間入りを果たしたところから転落。今はネッツに移籍したが、かつてのパフォーマンスを取り戻せずにいる。

シモンズはケガでデビューが先送りになったために、シモンズとフルツは同じ2017-18シーズンにNBAデビューを飾っている。シモンズがセンセーショナルな活躍で最優秀新人に選ばれた一方で、フルツはチームに馴染めず、すぐに『失格』の烙印を押された。

あれから6シーズン目の今、シモンズは6.9得点、6.3リバウンド、6.1アシストと、小さくまとまったロールプレーヤーとなった。これに対してフルツのスタッツは13.2得点、4.0リバウンド、5.5アシスト。数字は突出していなくても優れたバスケIQで試合の流れを読み、パオロ・バンケロやフランツ・ワグナー、ウェンデル・カーターJr.といった若いタレントの才能を引き出し、スタッツでは計れない価値をマジックにもたらしている。

フルツが牽引するマジックは、開幕から5勝20敗と最悪のスタートを切ったものの、その後は21勝16敗とまずまずの戦いぶりを見せている。プレーオフ進出は難しいかもしれないが、若い才能が思い切りよくプレーする『見ていてワクワクするチーム』であることは間違いない。再建を終えて、上位を狙うチームへと変貌しようとしているのが、今のマジックなのだ。

そのマジックとフルツは2021年に3年5000万ドル(約65億円)の契約を結んでおり、今オフには契約更新が行われるだろう。司令塔としてのフルツの価値を最も理解しているのがマジックで、サラリーキャップにも余裕がある。フルツ自身も新しい環境に飛び込むより、自分と一緒に成長してきたマジックでプレーを続けたい気持ちが強いだろう。マジック残留が基本線で、別のチームと契約するとなればよほどの好条件となる。

一方のシモンズは2019年夏にシクサーズと5年1億7700万ドル(約230億円)のマックス契約を結んでおり、今はその3年目。これが終わった時に、年俸でもフルツはシモンズを上回ることになりそうだ。

それでも24歳のフルツに対してシモンズも26歳とまだ若い。一番ひどい時期にはフルツこそ「再起が難しい」と誰もが思う状況にあったが、彼はそこから立ち直り、自分らしいプレーで価値を取り戻した。シモンズにもそれが起きないとは限らない。まずはケビン・デュラントとカイリー・アービングが抜けたネッツでリーダーシップを発揮する気概を見せること。シモンズにとってはそれが復活への第一歩となる。