富樫勇樹

「誰でも、どこでも、いつでもシュートが打てる状態でした」

バスケットボール男子日本代表はワールドカップアジア地区予選のWindow6を連勝で締めくくり、グループリーグを3位(7勝5敗)で終えた。

2月26日のバーレーン戦は序盤に富樫勇樹とジョシュ・ホーキンソンのホットラインが機能したことで先行し、32-19のビッグクォーターを作ると、すべてのクォーターで相手に上回られることなく95-72で勝利した。ホーキンソンはイラン戦に続いて2試合目の代表ゲームながら、チームハイの22得点に加え、10リバウンド4アシスト2スティールを記録した。特に富樫との連携プレーが印象的だったが、富樫も彼の適応力を高く評価している。「本当に彼は最初からフィットしていました。彼の持ち味というか、トムさんのバスケットにそもそも合っていると思います。いろいろなプレーコールを覚えるのは大変だったかもしれないですが、そういった素振りを見せずに、僕が参加した1回目の練習からずっと良かったです」

先発を務めた富樫は20分弱のプレータイムで8得点6アシストを挙げ、さらに出場時の得失点差を表す数値はチームトップの+22を記録した。富樫は最終クォーターの序盤にバーレーンを突き放す2本の3ポイントシュートを沈めたが、それ以外の時間帯はゲームメークに徹しているように映った。実際に富樫はボールを散らすことを意識していたという。「正直、今日に関しては全員がそうだったと思うんですけど、誰でも、どこでも、いつでもシュートが打てる状態でした。それでボールが止まってしまった時間帯もあったので、そこが難しかったというか。アグレッシブに行けばもっと行けた場面もありましたが、ボールを動かすことを意識していました」

現在の日本代表は若手選手が台頭するなど、競争が激化している。数字を残すことが一番のアピールとなるため、自分を優先する判断を下す選手もいるだろう。もちろん、それは一概に悪いと言えないが、富樫はより『先』を見据えてプレーをしていた。

「もちろん数字も大事ですけど、各選手は自分の強みを生かそうとコートに立っていて、それを生かしてこそ良いチームになってくると思っています。そこは難しいかもしれないですけど、僕はチームとして良いバスケットをしたい気持ちがあります。(八村)塁と(渡邊)雄太、(馬場)雄大、もしかしたら富永(啓生)だったり、彼らが入るとまた違うバスケットになると思うので、アメリカで頑張っている選手が入ってくることも見据えてバスケットをしていきたいと思っています」

富樫勇樹

「アジアと世界のレベルは全く違うことを全員が理解しています」

試合の終盤には富樫と河村勇輝を同時起用する『ダブルゆうき』の共闘が実現。「アジアカップで1、2分一緒に出たことが1回だけあります。交代だと思っていたので、ちょっと笑っちゃいました。こういう機会はないので、楽しめました」と富樫は振り返る。

ただ、この『ダブルゆうき』の今後の起用について指揮官のトム・ホーバスは、部分的な起用の仕方になると見ているようだ。「ワールドカップは1番と2番が(ともに)小さいチームはあまりいないので、相手を見ると長い間は難しいかもしれません。でも残り10秒でタイムアウトを取って、サイドラインから特別なプレーを作るのはアリ」

『ダブルゆうき』を試したように、日本は試行錯誤をしながらも2連勝でWindow6を終え、結果的に開催国枠ではなく実力でワールドカップ出場を勝ち取る形となった。それでも、Window1での大敗を覚えている富樫に慢心はない。「最初の中国戦の2試合を今でもかなり覚えています。トムさんの初めての試合で『大丈夫かな?』と思うくらいひどいゲームでした。正直、アジアと世界のレベルは全く違うことを全員が理解しています。誰もこれで満足していませんし、むしろ危機感を持っています」

富樫は日本の現在地が決して高いところにいるわけではないと冷静に分析した。ただ、その一方で「今のメンバーだと、このバスケがベストだと思う。バーレーン戦とイラン戦は、見ている人たちを『何かしてくれるんじゃないか』という気持ちにさせられたと思うので、今後も楽しみにしてほしいです」と、国内組だけで構成されたチームのパフォーマンスには満足している。約半年後に迫ったワールドカップ本戦をどんなメンバーで迎えるかは分からない。それでも、海外組の合流を見据えてプレーし、キャプテンとして国内組を引っ張ってきた富樫が沖縄のコートに立つ可能性は高い。