プレーオフを目指すのであれば、ウェストブルックの居場所は生まれる
ラッセル・ウェストブルックはレイカーズでの挑戦を1年半で終えた。ジャズとティンバーウルブズとの3チーム間トレードが成立したが、それでも彼の去就は今も不透明なままだ。
トレードが決まった当初、昨年夏にドノバン・ミッチェルとルディ・ゴベアを放出して再建に乗り出したジャズにウェストブルックの居場所はなく、すぐにバイアウトされると見られていた。それでもジャズは「あらゆる可能性を検討する」と表明し、ウェストブルックとの協議を続けている。
ジャズが決めるべきは、彼を残すにしてもどうチームに組み込むか。今の先発ポイントガードは24歳のコリン・セクストンで、彼の成長のためには十分なプレータイムを与えたい。ウェストブルックを残すにしても、セクストンの控えガードで出場機会が限られることを理解し、自分が主役ではなく若手の指南役となることを受け入れさせる必要がある。
また、大前提として今シーズンに勝ちに行くのかどうかを明確にする必要がある。現在の成績は28勝30敗、西カンファレンスの11位。再建1年目のチームとして良いインパクトはすでに残しているが、今後プレーオフを目指して戦い続けるのか、それともドラフト上位指名権を目当てに勝ちをあきらめるのか。再建チームのもともとの計画は後者だろうが、シーズン前半の出来が想定外に良かったことで悩んでいるからこそ、ウェストブルックに対しても「あらゆる可能性を検討する」のだろう。
今年のNBAドラフトで目玉となるビクター・ウェンバニャマは魅力的だが、今から負け続けてもロッタリーで良い確率にはならない。ラウリ・マルカネンをエースに置く今のチームに良い経験を積ませるには、クラブが勝ちをあきらめる中で淡々と試合をこなすより、プレーオフ進出を目標に戦う方がメリットは大きい。プレーイン・トーナメント経由であっても、ポストシーズンの戦いは若手にとって最上の経験になる。
ジャズがそちらを選択する場合は、ウェストブルックの居場所が生まれる。ボールを保持しすぎること、ジャンプシュートの精度の低さがレイカーズではことさらに強調されたが、ディフェンスの名手であり、ガードとしてはリーグ最高のリバウンダーで、力強いトランジションを生み出し、プロフェッショナル精神と勝利への意欲という意味で若手のお手本になれる。過去とは違い、ベンチからの起用を受け入れる懐の深さもある。
一方でウェストブルックがジャズに残るメリットは何なのか。4700万ドル(約61億円)の今シーズンの契約をバイアウトすれば、クリッパーズやヒートがシーズン後半戦とプレーオフの補強として彼に興味を示しているようだ。普通に考えれば、タイトルを狙えるチームに収まることが彼にはプラスとなる。
それでも、ウェストブルックにもジャズに残るメリットはある。おそらく、彼はNBA優勝以上に理解とリスペクトを求めている。2019年にサンダーを離れて以降、ロケッツではジェームズ・ハーデンと、ウィザーズではブラッドリー・ビールとの共闘を求められた。ただ、一緒にプレーする相手は『チームの顔』であり、彼は『助っ人』だった。サンダーでの最後のシーズンはポール・ジョージと一緒にプレーすることで一歩引く必要があったが、立場は彼が『チームの顔』で、ジョージが『助っ人』だったが、移籍した先ではそれが逆転した。その行き着く先がレイカーズで、勝てば誰か別の選手の手柄で、負けた時の責任ばかりを背負わされた。
バイアウトですでに完成されたチームに加わっても、同じことの繰り返しになるリスクが高い。また、バイアウトをすれば次の契約はベテラン最低保証額となる。もともとそのチームで大きな貢献をしていれば別だが、『安く済むから』という理由で獲得する選手には、どのクラブもリスペクトは薄いものだ。それならば再建中のジャズで、自分の価値をもう一度示してから、次の行き先を決めればいい。ウェストブルックがそう考えても不思議はない。
すべてはジャズが「プレーオフを狙って勝ちに行く」という姿勢をはっきりと打ち出すのであれば、の話となるが、トレードが決まった時点でバイアウトが決定事項のように思えたウェストブルックとジャズには、歩み寄る余地がありそうだ。