デジョンテ・マレー

若手にポジションを奪われることに納得できず、ホーネッツに移籍

デジョンテ・マレーは2016年のNBAドラフト1巡目29位でスパーズに加入した。ルーキーイヤーの2016-17シーズンは、ティム・ダンカンが引退したもののパウ・ガソルにマヌ・ジノビリ、カワイ・レナード、ラマーカス・オルドリッジとスター選手を擁しており、ポイントガードにはベテランのトニー・パーカー、2番手にはパティ・ミルズがいて、新人のマレーがここに割って入るのは簡単ではなかった。

『All The Smokes』に出演したマレーは加入当初を振り返り、「あのチームで僕にできることと言えば、主力の選手たちにタオルやゲータレードを渡すことだけだった。ポップ(ポポビッチ)も他の選手も僕のことを何とも思わず、あまり話したがらなかったように思う」と言う。

それでもマレーは「サンアントニオは退屈で、練習するしかなかった」というスパーズで努力を重ね、2年目の2017-18シーズンから主力に定着する。前年のプレーオフで負ったケガで開幕に間に合わなかったパーカーに代わり先発起用されたのを機に、35歳になっていたパーカーからスタメンの座を奪い取った。

それでもプレーオフになるとパーカーがスタメンに戻っており、グレッグ・ポポビッチが先々のことを考えてマレーに経験を積ませようとしていたのが分かる。ただ、ここには若手に居場所を奪われるベテランの焦りがあった。マレーは番組の中で、この時のパーカーの態度を批判している。

1年目のプレーオフ、ロケッツとのシリーズでパーカーがコンディションを崩して先発に抜擢された試合を「火の中に投げ込まれたようなものだったけど、あの経験が2年目に向けた良い準備になった」と振り返ったマレーは、「2年目にポイントガードの役割を僕が引き継ぐことになり、トニーはそれが気に入らなかった」と続ける。

「彼が納得していたら、自分の経験を僕に伝えてくれたはずだ。ホーネッツに移籍なんかせず、スパーズに残って僕を指導してほしかったけど、そうはならなかった」

この番組で司会を務めていたのは、かつてスパーズの主力として活躍したスティーブン・ジャクソン。パーカーと一緒にプレーし、優勝した経験のある彼もまた「偉大な選手だが自分勝手だった。フランスで16歳や17歳の時から『天才』ともてはやされてきたからだ。彼にチームを優先する考え方ができれば、我々はもっと優勝し、成功していただろう」と認めている。

1巡目29位指名は、NBAプレーヤーになる夢の実現であると同時に、注目されずにキャリアをスタートすることを意味する。マレーはそこから少しずつ評価を勝ち取り、今の地位を築いた。

レブロン・ジェームズのレイカーズ移籍で盛り上がった2018年のオフに、パーカーはスパーズを去った。ポポビッチからは「精神的支柱としてチームを支えてほしい」と要請されたが、戦力として自分に期待するホーネッツを彼は選んだ。しかし、その挑戦は1年限りで終了。「トニー・パーカーのプレーがもうできない」という言葉とともに、彼はバッシュを脱いでいる。