カイリー・アービング

「お互いのために良いプレーをしたいと全員が思っている」

12連勝中のネッツは、今のNBAで最も調子の良いチームだ。12連勝だけではなく、直近の21試合で18勝。それまでは6勝9敗と負け越しており、差は歴然としている。

この変換点に起こっていたのは──カイリー・アービングの復帰だ。『反ユダヤ主義』的な内容を含む映画のリンクをSNSに投稿した問題でクラブから出場停止処分を科された。当初は5試合だった出場停止が8試合になったところで、カイリーは謝罪。こうして彼がコートに戻ったところから、ネッツの快進撃が始まった。

プレー自体は事件の前後で大きな変化はない。それでもコート外で余計な論争をすることが一切なくなった。これまで彼はNBAのスター選手である自分の発言力をどう活用するかをかなり気にしており、バスケ以上にそちらに関心があるような言動もあったが、今はそれを封印してプレーに集中している。慈善活動への寄付などは以前と変わらず続けているが、それについての発言はしなくなった。

それはキツいお灸を据えられた結果なのだが、集中することで自分のパフォーマンスが向上し、勝利という結果も出ていることで、カイリーはバスケに夢中になっている。現在のチームについて、「チーム全体のコンディションが良いことが一番だ。試合を重ねる中でチームがまとまり、安定したプレーができるようになっている。特に今はアイソレーションに行く時に互いに良いスペースを作り出せている」と語る。

「僕らには仲間意識がある。コートの中でも外でも信頼関係を築くことができている。お互いのために良いプレーをしたいと全員が思っているんだ。ロッカールームには特別なエネルギーがあって、僕はそれを大切にしたい。あとは全員がこのまま健康でいられるよう、神に祈るよ」

今のカイリーは、かつては敵対関係とは言わないまでも緊張感のあったメディアとのやり取りも自然な笑みとともにこなしている。先のスパーズ戦では、渡邊雄太のシュートが外れたところをプットバックで押し込むダンクを披露。カイリーらしからぬ豪快なプレーだったが、それと同じぐらい『らしからぬ』だったのは試合後の会見で、「ダンクコンテストものだね」とメディアに問われて、苦笑しながら「いやいや、それは勘弁してよ」と返す和やかなやり取りだった。

『トラブルメーカー』のレッテルさえ剥がせば、カイリーは今もNBAのトップスター選手であり、チームを勝利に導くことのできる選手だ。そして彼が再評価されることで、移籍市場での価値も増す。今シーズン開幕前、契約最終年を前にネッツとの契約延長交渉は行き詰まっていたのだが、今はネッツが新たな契約をオファーすると見られている。

最大では4年1億9800万ドル(約260億円)の契約延長が可能だが、さすがにそれは望めない。ネッツは金額は上限額だが契約期間は1年あるいは2年のオファーを出すと見られている。

ネッツとしても、この交渉は早くまとめたいところ。早期に契約延長がまとまらなければ、レブロン・ジェームズと彼を組ませたいレイカーズを始め、獲得に興味をするクラブが動き始めるだろう。そうなると、カイリーと強い絆で結ばれているケビン・デュラントが昨夏に続いてトレードを要求しないとも限らない。

すでにベン・シモンズの大型契約を抱え、2024年に契約満了を迎えるジョー・ハリス、ロイス・オニール、ニコラス・クラクストンの再契約も考慮する必要があるネッツの状況は決して簡単ではないが、今は間違いなく優勝を狙えるチャンスであり、それを最大化するためにカイリーが必要であれば、ネッツはその決断を下すはずだ。

それでも、すっかり優等生になったカイリーは「僕らの目的は個人個人の事情よりも大きなものだ。だから自分勝手な振る舞いがないロッカールームは気分が良いものだし、それはコートでも同じだよね」と言う。

フリーエージェントになる自分の立場のことが頭にないはずはないが、それを脇に置いてチームの勝利のためにプレーする。それが今のカイリーだ。