福岡第一

取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

2年前の優勝に1年生スコアラーとして貢献した松崎裕樹がキャプテンを務め、U18日本代表のスピードスターとしてアジアを席巻した河村勇輝がどこよりも速い福岡第一の『走るバスケット』を体現する。インターハイを欠場した2人は、ウインターカップでの優勝にすべてを懸ける。優勝候補の福岡第一は、「ぶっちぎりの優勝」を見据えて、どこよりも厳しい練習を重ねている。

出場できなかったインターハイの分まで

──ウインターカップを1カ月後に控え、いつも以上に厳しい練習で追い込んでいるようです。もともと練習でかなり走り込むチームですが、やっぱり身体はキツい?

松崎 大濠に勝ってから「ウインターカップで優勝しないといけない」という意識を持っています。井手口(孝)先生も勝たなければいけないという責任を感じていて、そこから練習やトレーニングの強度が増しました。身体はかなりキツイです(笑)。

河村 一つひとつのスクリーンの対応をしっかりと、それができなければ一回ごとに止めて確認をしていて、そういう部分をしっかりやるとともに走る練習も増えています。

松崎 朝からマスクをつけてグラウンドを30分間走って、練習もオールコートのディフェンスフットワークから始まり、アーリーオフェンスの確認、ブレイクの出し方と走りますし、練習の最後にはシャトルランや50秒走で5往復とか、がっつり走ってます。

河村 これだけ走れば体力が上がるのはもちろんですが、キツい練習を乗り越えるために精神的なものが必要なので、第4クォーターの勝負どころ、キツい時にどっちが早く走り出せるかの部分で生きてくると思います。

──福岡県予選の決勝で大濠に勝った際には、涙を流しながら抱き合い、ライバルと健闘を称え合う姿がありました。福岡県で勝つことの重みを感じたのでは?

松崎 福岡でバスケをやっている3年生のほとんどが、打倒大濠、打倒福岡第一でウインターカップ予選に挑んできた姿を見てきました。だから大濠だけじゃなく、そういう3年生たちすべての思いを汲み取って、自分たちが頑張らないといけないと思っています。

河村 松崎さんが言ったこともそうなんですけど、去年のウインターカップで良い結果を出せなくて、3年生に良い思いをさせてあげられませんでした。歴代のウインターカップに出れなかった代の先輩の分まで、そして大濠の分も背負って、ウインターカップで頑張ろうと思います。

──2年前は2冠を取りましたが、昨年は悔しい結果に終わっています。松崎選手は1年生ながら主力として2年前のウインターカップ優勝に貢献しましたが、あの時と比べて大会に臨む気持ちはどう変化していますか?

松崎 日本一になるうれしさも、結果がなかなか出ない苦しさも、2つとも経験させてもらいました。今回は絶対に日本一になるという気持ち、あとは後輩たちをあの決勝の舞台に立たせたいという気持ちでやっています。

──河村選手は日本一を経験していませんが、アンダー世代の代表で世界と戦う経験をしています。今年はインターハイに出場できなかった分、ウインターカップに懸ける意気込みは強い?

河村 僕はまだ福岡第一で日本一になったことがありません。2年生の自分が試合に出ている分、出れていない3年生の思いも託されているので、全国優勝しなければいけないという気持ちです。去年の大会では良い思い出がないので、今回はしっかりと。今の3年生はもちろん、去年の3年生の分まで背負ってプレーするつもりです。

福岡第一

河村「対戦相手のガード全員がライバル」

──激戦の福岡県を勝ち抜きましたが、全国にも強豪校が揃っています。ウインターカップでライバル視するチーム、選手はいますか?

松崎 僕らが出場できなかったインターハイで開志国際(新潟)が優勝しているので、ウインターカップで倒したいです。選手では桜丘の富永啓生がウインターカップに出てきます。得点を取ることでは富永が上ですけど、調子に乗らせないように勝ちたいです。富永は代表で一緒でした。一回調子悪くなるとシュンとなって全然入らなくなるのですが、僕は調子が良くなくてもディフェンスで頑張ったり仲間に託したりすることを覚えたので、勝てると思ってます(笑)。

河村 インターハイで優勝した開志国際を意識するのはもちろんですが、どのチームも全力で倒す気持ちです。対戦相手のガード全員がライバルなので、ディフェンスで完封して倒してやるつもりで行きます。どのチームとやるにしてもガード対決になるし、ゲームを支配してチームに勢いを持ってくるのはガードの力だと思うので、その部分はどこのガードとやっても負けたくないです。強いてライバルを挙げるとしたら中部第一の中村拓人選手です。国体の決勝では福岡が愛知に勝って、悔しい思いを持って僕たちを倒しに来ると思うので、その気持ちに負けないように、跳ね返すつもりでやります。

──練習でも試合でも、バスケをしている時の2人は淡々とプレーに集中しているイメージです。バスケを離れた時はどんな感じなのか、お互いの様子を教えてください。

河村 松崎さんは練習でも試合でも頼り甲斐があるんですけど、練習前とか学校生活では面倒臭いぐらい『かまってちゃん』なので、そこは全国の皆さんに教えたいです(笑)。

松崎 それは河村が欲しがるから(笑)。自分が行かないと欲しがるんで以心伝心です(笑)。河村はバスケットだと華のあるプレーができるので、女の子のファンも多いと思うんですけど、ちょっと先輩を舐めてるというか、3年生をおちょくってくるところがあります。「こんなのもできないんですか?」みたいに小馬鹿にする感じで煽ってくるんですよ。

河村 思い当たる節がないです(笑)。

──でも、バスケをする上ではお互いに信頼できる、頼りになる存在ですか?

松崎 そうですね。福岡第一は速さをウリにするチームで、河村がブレイクやアーリーオフェンスの要を担う存在なので、そこは自分もチームメートも絶対的な信頼をしています。チームが困った時に誰よりも声を出して、しっかり点を取ってくれます。3年生じゃないのにチームを背負っている自覚を強く持っています。バスケットIQも高い選手なので頼り甲斐があります。強いて言えば見せたがりなので、もうちょっとボールを離してほしい(笑)。

河村 全国を見ても4番ポジションの選手が走れるチームは少ないです。自分が走って点を取ってるように見えるかもしれませんが、それは4番や5番の選手が走れるようなシチュエーションではない時に松崎さんがしっかり走ってくれてブレイクが成り立つところがあるので、そこはすごいと思います。ハーフコートオフェンスになっても1on1で決めてくれますし、大濠戦でもしっかり締めてくれました。やっぱり頼り甲斐があります。強いて課題を言うのであれば、チームがうまくいっていない時に相手に熱くなりすぎて「冷静にやってください」と言わなければいけないことがあるので、そこだけは心配です。

福岡第一

松崎「キャプテンとしてあるべき姿を見せたい」

──松崎選手にとってはウインターカップが高校3年間の集大成となります。

松崎 1年生の時は重冨周希さんや友希さん、(土居)光さんに引っ張ってもらって優勝させてもらいました。去年は自分が全然ダメだった時に3年生から「大丈夫、やれる」と声を掛けていただいて、ベスト4まで連れて行ってもらいました。最後の年は自分たちが3年生で、下級生が多いチームですけど、最後は「3年生ができる」ということを見せて、みんなを日本一にしてあげたいと思っています。

──河村選手は、井手口先生を日本一の先生にしてあげたいという思いがありますか?

河村 そう思います。自分たちとはバスケ歴が違う中で、僕らが想像する以上にバスケットのことを考えていらっしゃいます。朝早くから夜も最後まで残って77人いる部員の一人ひとりを指導して、本当は大変なんだと思います。そこはやっぱり尊敬します。

松崎 僕は1年生の時から試合で使っていただいて、その時から怒られたり結構バチバチした時もあったんですけど、やっぱり先生がチームのことを誰よりも考えているし、選手一人ひとりのことを考えているのが3年間やってきてやっと分かってきた感じがします。日本一になりたいと一番思っているのが先生だし、先生が怒るのも気持ちの入った指導をしてくれるからで、やっぱり第一に来てバスケットができて良かったと思っています。

──最後の質問です。ウインターカップをどんな大会にしたいですか?

河村 日本一を取ることが大前提なんですけど、ぶっちぎりで優勝することが福岡県代表としての恩返しだと思っているので、ぶっちぎりで1位になることを目指します。個人的には身長が小さいことを理由に「自分はダメだ」と思っている人を勇気付けられるように、いろんなことを全力で頑張りたいです。

松崎 大濠の分も背負って日本一になるのは当然のことです。その上でバスケットの内容でも他を圧倒していくことが目標です。先生とバスケできるのは最後ですし、後輩たちとバスケできるのも最後の大会になるので、一番良かったなと言える大会にしたいです。個人的には華があるプレーとはできませんが、点を取ることが一番チームに貢献できると思うので、チームで一番得点を取って、キャプテンとしてコートで声を出して、あるべき姿を見せたいと思います。