瀬戸山京介

京都両洋は激戦の京都府予選を勝ち抜き、洛南に続く京都2位でのウインターカップ出場を決めた。チームを率いる瀬戸山京介は、bjリーグ時代の京都ハンナリーズでポイントガードとして活躍した実績の持ち主。Bリーグのスタートを目前に控えた2016年のオフに現役を引退し、プロ生活の長くを過ごした地で指導者へと転身した。7年目の今年、全国大会初出場となるも、瀬戸山コーチは『学校生活と部活動の両立』というスタイルを崩さない。高校時代に決勝進出を果たし、大会ベスト5に選ばれた2000年大会以来のウインターカップに、「この選手、このチームで一日でも長くやりたい」という気持ちで臨む。

「人としての部分、組織としての部分を重視しています」

──激戦の、というより洛南と東山の完全なる2強に割って入る形でウインターカップ初出場となります。ただ、これまでは2強を崩せない苦労や悩みがあったのでは?

結果を見ると苦労したように見えますが、毎年、毎大会で選手のラインナップや戦い方を変えていく中で、チームとしては着実に一歩一歩成長している実感がありました。そこは毎回良い収穫を得ながら進んで来ている感じですね。

──今回、京都予選を勝ち抜けた要因として、バスケの面ではどの部分に成長がありましたか。

良い判断ができるようになったことだと思います。練習中から「こういう判断ができないといけない」という話をずっとしていたのを、選手がしっかり吸収して試合で発揮できるようになりました。今ではちょっとマズいかな、という流れの時でも、私がタイムアウトを取らなくても選手たちがコート内で解決してくれることが増えています。指導する側の狙いはたくさんあるんですけど、いっぱい教えすぎてもチョイスできなくなるし、大枠がある中で「こういうプレーもあるよ」、「こういうバスケもできるよね」という教え方をしています。

──プレーの面での成長は、人間性であったりリーダーシップの面での成長と足並みを揃えるものですか?

今のバスケ部の生徒は学力の上下はありますが、学習とか学校生活に取り組むスタンスはすごく一生懸命で、そこで身に着けた自主性や協調性は部活にも生きていると思います。技術的なことより、やっぱり「チームルールを徹底できているか」とか「相手を思いやることができているか」とか、人としての部分、組織としての部分を重視していて、そこはブレずに指導できていると思います。

高校生だと良くも悪くも個性や自我が出ますが、ウチはチームを最優先にすることを求めます。「自分が」という思いはあっていいですが、それと比較してチームと自分のどちらを選択するのか。今の選手たちはみんなチームを選択してくれるから、そこはすごく理解してくれていますね。

それは技術的な意味もあって、ウチはコールプレーが多いチームではなくモーションオフェンスのチームなので、まず自分の、そして仲間のキャラクターを理解しないとチームにフィットできません。ただ練習をやるだけでは整理できず、コミュニケーションが必要になります。その中で個々の選手が、自分の成長とチームの成長をミックスできるように心掛けています。

瀬戸山京介

「一番はこの選手、このチームで一日でも長くやりたいという気持ち」

──今回のウインターカップ予選では、京都両洋が東山に勝ったことが一番のサプライズです。周囲の反響も大きかったのでは?

そうですね。京都のレベルが高いことを皆さんが認知してくれて、私のことを知っている指導者の方々が「すごい」と言ってくださることは率直にうれしいです。自分が現役時代にチームメートとして、ライバルとしてしのぎを削っていた仲間からの連絡もたくさんありました。彼らとの繋がりが今でもあるのはうれしいし、そういう仲間から応援されているのは本当に励みになります。

──いよいよ全国大会ですが、どんな戦いをしたいですか?

私の指導スタンスはもちろん勝つことも大事ですが、それ以前に「高校生として」という部分に一貫して重きを置いてきて、予選を勝ち抜いて一番うれしかったのは、「まだこのチームで活動できる」でした。京都の代表としてウインターカップに出るからには、もちろん私自身も選手も強い気持ちを持って大会に臨まなきゃいけないと思うんですけど、一番はこの選手、このチームで一日でも長くやりたいという気持ちです。だからプレッシャーをあまり感じることなく、一日一日を頑張っていけると思います。

やっぱり全国大会って異質だし、特にウチの選手は全国大会に出た子もいなければ、選抜もいない。そういう経験のない選手たちで臨むので、会場の雰囲気にのまれる可能性もあります。そこはコートに立たなければ分からないですけど、やるべきことをしっかりやって戦うのは今までずっとやってきたことなので。ウインターカップだからと今までのスタンスを変えるのも違うと思いますし。

──ご自身が高校生だった頃は小林高校で準優勝しています。その経験から言えることはありますか?

3年生のインターハイでは1回戦負けしそうになりましたし、ウインターカップの初戦も前半で19点差ぐらいのビハインドだったのを後半に逆転して。本当に紙一重でした。結果として全国2位になったチームでもそういうことはあるので、分からないですよね。自分の経験から言えるのはどの試合も侮っちゃダメだということで、一戦一戦やるしかないですね。

瀬戸山京介

「チームの中で絶対必要な人間を育てていきたい」

──ウインターカップが近付いてきましたが、選手の様子はいかがですか?

ウインターカップより前に受験ですね(笑)。3年生が8人残っていて、そのうち4人は受験するんです。スタメンの選手も受験があるので、11月は部活よりもそちらが優先です。1、2年生も京都のリーグ戦があるので、チーム活動としてウインターカップに向けて、というのは組み合わせが決まってからですね。

でもそれもウチらしいと思います。ウチは全国からバスケをやりたい選手が集まるわけじゃなく、学校生活と部活動の両立をするチームなので。今はコロナ対策でAチームとBチームの練習を分けていて、AチームもBチームも平日の練習は2日。それに加えてトレーナーに来てもらってのトレーニングがあるので、AチームもBチームも活動は週3日です。あとは土日に練習試合だったり。今はこのスタイルで良いと思っています。

ウチは寮がないので全員が通いです。京都では洛南か東山に行けなかったら他県へ行く選手が多い状況ですが、京都でもこうやって頑張るチームがあると理解されれば、選択肢が増えて希望が持てるようになるのかなと。

──洛南と東山が絶対的な2強である京都で、文武両道のスタイルでやり続けるのは相当な根気が必要だと思います。どういう考え方で日々の指導に向き合っていますか?

常に良い選手に恵まれて、常に勝つことができるチームは稀ですよね。ウチも今は本当に良い選手が集まってくれていますが、これからどうなるかは分かりません。その中で今この選手と向き合う時間をどれだけ大切にできるかが大事だと思っています。そういう考え方をすれば、勝利の価値とか活動の意味もまた変わってきます。元プロ選手の指導者への期待、東山に勝ったチームへの期待はあると思うんですけど、自分は周りの目をあまり気にしていなくて、私がどうしたいか、選手たちとどうなりたいのか、それが一番大事だと思っています。

──瀬戸山コーチがプレーヤーとして高校、大学、プロとトップの舞台に立ち、「勝つことがすべて」というそれぞれの環境を経験してきたからこそ、その心境に達したのではありませんか?

私は常に良い舞台で活動させてもらいましたが、やっぱり「上には上がいるな」と思ったんです。その時に自分がいた環境を振り返っていくと、例えば高校3年で僕の親友がメンバーから外れたり、大学でもAチームを応援してくれるBチームがいたり。それこそ恩塚亨さんは私が1年の時の4年生で、トレーニングパートナーを1年間一緒にやってくれました。上でやればやるほど、支えてくれる人が大事になります。そう考えると、活躍する選手だけでなく、その選手を支えられる人、チームの中で絶対必要な人間を育てていきたい。チームという組織の中で自分が主役になれるポジションを見付けて、その集合体としてチームが成り立つ。そんな形を作っていきたいです。

そりゃあ勝負になったら勝ちたいですけど(笑)、でも指導する身としては、そういう考えてチームを作っています。なのでウインターカップでも、ずば抜けた誰かというより、チーム全体で試合を楽しんでいる雰囲気、戦う姿勢を見てほしいです。