群馬らしい文化を根付かせる挑戦は始まったばかり

「やりがいしかないですよ」

今シーズンから群馬クレインサンダーズを指揮する水野宏太ヘッドコーチが、インタビューの間で一番の笑顔を見せたのは、やりがいについて話した時だった。群馬での新しい挑戦に対する充実感と期待感があふれ出ており、今後の発展を感じずにはいられなかった。

群馬は第5節までの9試合を終えて、6勝3敗の東地区3位。強豪がひしめく東地区で、良いスタートを切ったと言えるが、水野ヘッドコーチは「今シーズンに関しては、基盤を作り文化を作っていくことと、その工程をどれだけ辿れるかにフォーカスしています。その中で、勝率に対して満足をしている、満足していないという評価はありません。そこは自然に付いてくるものです」と話すように、戦績に一喜一憂せず、B1では2シーズン目となるチームに強豪チームの文化を根ざすビジョンを強く持っている。

文化とは単に一言で片付けられるものではない。水野ヘッドコーチも「競争することをしっかりできる文化、そして一つひとつの練習や試合に向けて準備をする文化、自分たちがやるべきことをどこまでやれるのかを追求しています」と言う。Bリーグの中で強豪チームになるためにそういったプロセスが必要なことを、アルバルク東京でアシスタントコーチを務めた4年間でルカ・パヴィチェヴィッチ元ヘッドコーチから学んだのだ。

「勝つためのメンタリティ、戦うためのメンタリティを植え付けて、文化を作っていくことを意識しています。その文化を作る過程で、自分たちがやっていることは『優勝に値するものなのかどうか』ということを選手には伝えています。ですが、優勝するのが是で、それ以外が否と思われるのは嫌なので、日常的には『優勝』という言葉は使いません。文化と聞くと聞こえは良いですけど、行く先々で同じものではなく、辿ってきた歴史や土地柄の背景、選手の性格や特徴で異なるので、A東京の文化と群馬の文化は全然違います。あらゆる物事の大切な基礎を学んだ中で、群馬バージョンの文化を作っていくことに挑戦しています」

あきらめないことでファンに示せた群馬のチームカラー

今シーズン行われた4回の連戦のうち第2戦は負けなしと修正力が強みとなっているが、水野ヘッドコーチも勝敗だけでなく、チームのカラーとしてこの結果を評価している。「信州ブレイブウォリアーズ戦は第1戦が厳しい内容だったにもかかわらず、カムバックできました。A東京との第2戦も難しい状況の中から、逆転勝利することができています。チームカラーをどう示していくかとなった時に『あきらめない』ということを示せたのは、文化作りの中で大きいです。あきらめなかったからこそ辿り着いた結果を見せて、ファンに自分たちの姿勢や気持ちを感じてもらえました」

来春に新アリーナも完成となり、ホームタウンである太田市のバックアップも追い風となっている。水野ヘッドコーチも「バスケを通じた地方創生に惹かれた」と就任の動機を話しているように、この土地により良くバスケが根付くことを常に考えている。「まずはファンが誇りに思ってもらえるようなチームと組織にします。日々、熱い気持ちを持って応援してくれているのを感じているので、その想いに応えたいです。ファンの方には生活の悩みを忘れて、自分たちと一緒に戦ってくれるような熱い試合を見せることで非日常を感じてもらいたいと思っています。その非日常がファンの日常になればそれが地方創生に繋がると信じています。どの年代でも話題に出てくることが日常になれば、チームがファンとともにあり続けることに繋がってくると思います」

インタビューがひと段落した後、漏らした一言が印象的だった。「東地区で勝つのは簡単じゃないですよ。ずっと東地区でやってきたからこそ、その難しさは良くわかっています」

思えばBリーグ発足以降、B1東地区のチームに携わり続けているヘッドコーチは水野ヘッドコーチだけである。簡単じゃないと言いつつも、自信の裏返しにも聞こえるその言葉を信じて、バイウィーク明けも群馬のバスケに期待したい。