ベネディクト・マサリン

シックスマン賞を狙える活躍で、近く先発への抜擢も

NBAでプレーできるのは、突出した才能を持つ選手だけ。それでも大多数はNBAのレベルへの適応に大なり小なり苦しみ、少しずつリズムをつかんで自分の才能を発揮できるようになる。デビューしていきなり活躍できる選手はごくわずかで、それは才能溢れるルーキーの中でも、さらに突出した能力を持った者だ。

今シーズンのルーキーで言えば、ドラフト全体1位のパオロ・バンケロがそうだ。マジックは2勝9敗と勝てていないが、バンケロは23.5得点、8.3リバウンド、3.6アシストとルーキーとしては突き抜けたスタッツを残している。

それに続くタレントを挙げるなら、1巡目6位でペイサーズに指名され、開幕から10試合すべてに出場して19.4得点を挙げているベネディクト・マサリンだ。巧みなボールハンドリング、フットワークの鋭さ、線が細く見えてもコンタクトを厭わない体幹の強さは、他の上位指名選手も持っていないわけではない。マサリンがNBAデビューと同時にそのポテンシャルを発揮できている理由は精神面にある。

NBA経験の豊富な選手が相手でも臆することなく、かと言って無謀に突っ込むのではなく、落ち着いて正しいプレーを選択できる。ダブルチームが来ればパスをさばき、有利なマッチアップなら自分で仕掛ける。キックアウトのパスを受ければ、シュートチェックに飛び込んで来る相手が間に合うかどうかを瞬時に見極め、そのまま打つか、ワンドリブル入れて相手をかわすか、あるいは他の選手にパスを出すかを選択する。ルーキーらしからぬ落ち着きと判断力が、マサリンをスペシャルな存在に押し上げている。

モントリオールでの高校時代は、才能はあってもバスケに打ち込む姿勢に問題があったというマサリンだが、メキシコのNBAアカデミーに行き、自分の努力次第でNBAプレーヤーになれると気付いてからは人が変わったように練習をするようになったそうだ。その後、アリゾナ大に2年在籍。2021年のNBAドラフトでは1巡目で指名されそうにないためエントリーを見送り、もう1年かけてNBAへの準備を整えた。1巡目6位指名に繋がったのだから、この判断はコート上でのプレー選択のように正解だったと言える。

ペイサーズのアシスタントコーチで、サマーリーグの指揮を執ったロナルド・ノアードは『SportsNews』にこう語っている。「ワークアウトでは基礎的な能力のすべてが高いレベルにあることが分かった。サマーリーグでは、練習より試合でずっと良いプレーをする選手なのが分かった。彼は自分のスキルをとことん追求し、試合で反映させるタイプだ。試合が好きで、そこで楽しむために一生懸命にやる選手は伸びるよ」

ここまでベンチスタートではあるが28分のプレータイムを得ており、1年目からシックスマン賞を獲得する可能性もある。ただ、アーロン・ネスミスに続いてクリス・ドゥアルテもケガをした今、次のナゲッツ戦でマサリンはスタートに抜擢される可能性がある。

「そうなったら、僕にとっては大きな意味がある。でも、試合へのアプローチを変えようとは思わない。ベンチから出るのと同じように、最初からアグレッシブに行くよ。それが僕にできるチームへの最善の貢献だと思うからね」とマサリンは言う。
 
タイリース・ハリバートンとバディ・ヒールド、マサリンの3ガードは、これまでも試合の流れの中で用いられ、機能してきた。マサリンが先発となれば、この3ガードの時間帯が増える。この場合、マサリンはガードではなくウイングとしてのプレーが増えるが、「ディフェンスはもともとガードからパワーフォワードまで守れるのが僕の持ち味だから、何の問題もない」と彼は言う。「オフェンスは問題がないどころか、ただただ楽しいよね。みんな楽しくプレーできる。チームとしても素晴らしいことだと思うよ」

ペイサーズはまだ再建段階で、大きな目標を掲げるわけではないが、1勝4敗のスタートから4勝1敗と立て直す過程で、マサリンのような若い選手が良い経験を積んでいる。20歳のマサリン、22歳のハリバートンの成長は、いずれペイサーズを大きく変えるはずだ。