自分中心のスタイルから『大人』を感じさせるマイナーチェンジ
ホーネッツはラメロ・ボールが務めるポイントガードの控えが悩みの種で、オフにはケンバ・ウォーカーの獲得が噂されました。その座をデニス・スミスJr.が奪い取ることになるとは、開幕前には予想できませんでした。ラメロが離脱する中でプレータイムを手に入れたスミスJr.は、4年ぶりに輝きを放っています。
2017年のNBAドラフトで、後にオールスターとなるドノバン・ミッチェル、バム・アデバヨ、ジャレット・アレンよりも早い9番目に名前を呼ばれたスミスJr.は、新たなチームの核としてマーベリックスに迎え入れられました。サイズはなくてもトリプル・ダブルを記録するなど、スピードを武器にコートを縦横無尽に駆け回るスミスJr.とキャリア終盤を迎えてノロノロと動くダーク・ノビツキーのコントラストは勝敗を超えた面白さがあり、同時にエースのバトンが新時代に受け継がれていくようにも見えました。
ルーキーシーズンのスミスJr.は、ジェイソン・テイタムを上回る平均15.2得点に加え、ルーキーで3位となる5.2アシストを記録し、オールルーキーセカンドチームに選出されました。順風満帆なスタートを切ったスミスJr.でしたが、2018年にルカ・ドンチッチが加入したことで、スターの座から転げ落ちてしまいます。
押しも押されぬエースとして臨んだはずの2年目でしたが、あまりに大きすぎるドンチッチの存在感に押し潰されるようにプレー機会を減らしていくと、明らかに不満げな顔を見せるようになり、クリスタプス・ポルジンギスとのトレードでニックスへと移りました。この新天地でも時間とともにプレータイムを失い、これ以降はピストンズやトレイルブレイザーズで一定のチャンスは与えられるものの、そのたびに不安定さを露呈し、ローテーションに加わることができませんでした。
スミスJr.の問題は自分主導のプレーを望み過ぎることと、3ポイントシュートの精度にあります。自分がボールを持ってアタックすることでプレーを構築するのが大前提で、オフボールのポジショニングや判断力が低く、主役でなければチームオフェンスに絡めません。1巡目でドラフトされる選手は子供の頃からスター街道を走っており、自分が中心でなければポテンシャルを発揮できないことは珍しくありません。スミスJr.のスピードは特別なものではありますが、いまさら彼を主役にするチームが出て来るとも思えず、このまま消えていく可能性も十分にありました。
しかし、ホーネッツはラメロの欠場もあって、スミスJr.のアグレッシブな突破を必要としていました。ガードとしては珍しく、全アテンプトのうち3ポイントシュートの割合が25%を切っており、スピードを生かしたドライブ中心のプレースタイルは変わっていませんが、強引にシュートに行くことが減り、起点の役割に徹してディフェンスを引きつけてのパスで平均6.4アシストと結果を残しています。パス能力の高いラメロの個人能力を戦術の中核として考えていたホーネッツのスタイルに、代役のスミスJr.のプレースタイルがハマっています。
ドンチッチに主役の座を奪われて不貞腐れていたヤンチャ坊主が、5年の月日を経て大人になったことを感じさせますが、スミスJr.はまだ24歳と若く、主役をあきらめる年齢ではありません。ここまで3ポイントシュートの成功率も42%と高く、またディフェンスでも2.3スティールと結果を残しており、今後も継続的にプレータイムが与えられそうです。このチャンスをものにして、ルーキーシーズンの自分自身を超えることができるのか、スミスJr.の復活劇に注目です。