Bリーグチェアマン大河正明『現場百回』vol.4「プロフェッショナルのあるべき姿」

2018/11/09
Bリーグ&国内
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大河正明

文=鈴木健一郎 写真=バスケット・カウント編集部 B.LEAGUE
1958年5月31日、京都府生まれ。2015年にサッカーのJリーグから新リーグ創設を目指すバスケ界へと舞台を移して組織再編を手掛け、川淵三郎初代チェアマンの後にチェアマンに就任。現在は「BREAK THE BORDER」をキーワードに、新たなプロリーグの盛り上げに尽力している。日本バスケットボール協会の副会長も兼任し、立ち遅れたバスケットボールの環境整備、強化に邁進する。高校生までバスケ部。

「研修をやれば不祥事がゼロになるわけじゃない」

──アジア競技大会期間中の選手の不祥事、また京都ハンナリーズでは窃盗事件で選手が逮捕され、バスケット界のプロとしてのあり方が問われる中でBリーグ3年目のシーズンが始まりました。もともとBリーグ全体として、選手のプロとしてのあり方はどう感じていましたか?

疑うような部分を感じたことはありませんでした。もともと夢を抱けないような給料でプレーしていた選手が脚光を浴びた場合にどうなってしまうのか、そんな心配はありましたが、選手から危険な兆候を感じることはなかったんです。全員と接するわけではないにしても、どの選手も真面目で、チャラチャラした感じはないし、人前で話す時もちゃんと考えて話すことができます。それだけに今回のような不祥事は残念です。

──アジア競技大会で不祥事を起こした選手たちの処分を発表した会見では、再発防止の取り組みとして、大河チェアマンが全国行脚で研修を行うという話がありました。

すぐにスタートしていて、今は20チームぐらい行いました。次回は11月12日、東京に多くのチームを集めてやります。

──研修では選手にどんなことを伝えているんですか?

いつも最初に「私は今日ここに、人の物を盗んではいけないとか、飲酒運転をしてはいけないとか、そういうことを言いに来たのではありません」と言います。あなたたちはいつか引退する。引退後もバスケットボールで飯が食える人はせいぜい1割。多くの人がバスケットから離れて長い人生を生きていかなきゃいけない。そのために現役の間に何を考えるべきか、それを初心に戻って考え直すきっかけになってほしいんです。

だから、新人研修も含めて「選手たちの給料はどこから出ているのか」を話します。お客さんが入場料を払い、グッズを買ってくれています。看板を出している企業はスポンサー料を払っています。そのお金がプロ選手の報酬になり、プロ選手の価値になる。一握りの選手かもしれないけど、その報酬の源泉を減らす方向に働く出来事があった。一人ひとりが自覚して行動しないと、選手の価値はすぐに下がってしまうよ、という話をメインにしています。

価値の根幹になるのは選手のコート上でのパフォーマンスであり、日頃からの立ち居振る舞いです。クラブやリーグのスタッフもいろんな仕事をしていますが、お客さんは選手を見に来るんです。だから選手たちがどうするかにすべてが懸かっている、という話をしています。

結果として、この研修をやれば不祥事がゼロになるかと言えば、そうじゃないと私自身も思っています。ただ、1万回のリスクがあって30回の不祥事が起きるところを、こういうことを丁寧に伝えていくことで選手が踏み留まって10回になるかもしれない。その10回をさらに減らすにはクラブのメンター制度を充実させるのが大事になります。それと同時にオフコートのキャプテンを置くよう、各クラブにお願いをしています。

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「人間力の高い選手が多いリーグにしていきたい」

──不祥事云々は抜きにして、選手のプロフェッショナル意識についてどうお考えですか?

例えば田臥勇太選手ほど、試合と練習の合間を見付けては徹底的に身体をケアする選手はまだ少ないです。去年の夏にフリオ・ラマスが来た当初は、ジャンクフードを食べる代表選手がいると怒っていた。彼はまず代表選手にその意識を植え付けるところからスタートしなければいけませんでした。ただ、最近その意識は相当に変化していると思います。代表では佐藤晃一パフォーマンスコーチが来たことも大きくて、篠山竜青選手は筋肉モリモリになってきました。田渡凌選手のトレーニングを見たことがあるのですが、彼も相当に鍛えています。選手として活躍する期間を長くするために身体をケアして食事にも気を配る、そういう意識は上の選手から高まっています。田臥選手のような一流のプロフェッショナルが、ようやく各チームに出てきていると感じます。

──バスケットボール選手にとっての『プロフェッショナル』とは何でしょうか?

プロフェッショナルとは何かを一言で表すのは難しいですが、私は自分で物事を考えて判断できる選手が増えてほしいと思っています。選手たちは素晴らしい能力を持っているんだけど、部活時代からどうしても言われたことをやってきているので、自分で考えて自分で行動するのに慣れていない。サッカーはJリーグのユースだと「考えさせるのがコーチング」という概念が浸透していますが、バスケはまだ部活中心。今どんなプレーをするのか自分で考える能力を磨いてほしい。オフコートでも同じです。バスケットの仲間だけじゃなく、今は社会人として働いている友人と会話する場を設けて見識を広めるとか、そうやって人間力を向上させてもらいたいです。プレーだけじゃなく、あらゆる面において自分で考える力を持った、人間力の高い選手が多いリーグにしていきたいです。

──自分で考える力は年齢とは関係ありませんね。渡邊雄太選手や八村塁選手は、取材で接するだけでも考え方の根本から違っていると感じます。

どんな競技であれ、一流の選手は10代でも受け答えがしっかりしています。テニスの錦織圭選手や卓球の張本智和選手、ちょっと前だとゴルフの石川遼選手とか、その競技が得意だからそれで生計を立てていくんじゃなく、プロフェッショナルとしての将来設計を自分で組み立てています。渡邊選手も八村選手も「将来はNBA」という目標があって、今どこのステップにいて、次に行くには何をやらなきゃいけない、という思いが相当に強い。そんなことを常に考えているから、取材でどんな質問が来ても自分の言葉でちゃんと答えられるんです。見られている意識があるから言動もしっかりしていく。そういう姿勢が人から見られた時の『オーラ』を作るんだと思います。

──ただ、全員が横並びで圧倒的に高い意識を持つのは難しいのが現実です。

常に寄り添うことも必要です。研修をしていますが、本当は双方向コミュニケーションじゃないといけない。選手も感じていることはいろいろあるだろうし、そこはメンターやオフコートキャプテンが思いやりとリスペクトを持ってサポートしてあげてほしいと思います。

大河正明

「オールスターで富山のバスケットを盛り上げたい」

──話題を変えて、富山です。今月末に日本代表の試合があり、年明けにはBリーグのオールスターゲームもあります。ここに来て盛り上がっていますが、「なぜ富山?」なんでしょうか。

オールスターは頑張っている地方を盛り上げようというコンセプトで富山を選びました。富山は雪が多く降る地域なので、体育館でやるスポーツが昔から盛んで、『バスケットどころ』と呼ぶまではいかないんだけど、代表クラスの選手を輩出している印象です。今も馬場雄大選手や八村選手は富山の出身です。

富山市からはリーグもクラブも熱心に応援していただいています。今回も富山市が電車をラッピングしたり、シティドレッシングで協力してもらいます。バスケットを一つの起爆剤として観光も含めて盛り上げたい思いが強い。昨シーズン途中から吊りビジョンが導入されましたが、あの予算申請も相当な苦労をしてやっていただいた。市長を始め、応援していただいています。

富山は地方都市ですが優良企業も結構多いし、大学進学率も高くて、幸せ度ランキングではかなり上位なんです。ただ、観光だと新幹線で富山を通り越して金沢にみんな行ってしまう。あまり目立たないかもしれませんが、実力のある県なんです。今回のオールスターは大阪と富山に理事会でプレゼンテーションしてもらって、富山が選ばれました。大都市の大阪と比べて、スポーツで街を盛り上げよう、アピールしようという気持ちが強かったです。

──大阪も熱意がなかったわけではないと思いますが、どの部分で外れたのでしょうか。

関東に比べて関西でバスケットやBリーグが根付かない中で、オールスター開催を一つのきっかけにしたいという意見はありました。大きなキャパでできる魅力もありました。ただ、それ以上に行政の熱心さが決め手になりました。大阪ではプロ野球の試合が毎日あり、Jリーグもあり、大相撲も来る。そういう中にBリーグもある、という位置付けでした。また「地方創生」というテーマに本気で向き合いたいというBリーグの意向もあって、富山になりました。

──オールスターゲームを開催することで、当日の盛り上がりはもちろんですが、終わった後に富山に何かしら残ってほしいですね。

そうですね。グラウジーズには調子の良い時も悪い時も変わらず応援してくれるコアファンがすごく多い印象ですですが、逆に言うとライト層を取り込むことがクラブとしての大きな課題となります。そのきっかけ作りとして、日本代表のワールドカップ予選2試合とオールスターゲームは大きな意味を持つはずです。それをクラブが生かすことができれば、富山のバスケットはもっともっと盛り上がると期待しています。