ドレイモンド・グリーン

処分の軽さに納得がいかなかったチーム関係者によるリーク?

ウォリアーズの火消しは上手く行かなかった。ドレイモンド・グリーンがジョーダン・プールを殴打した事件は、グリーンが謝罪しボブ・マイヤーズGMが「グリーンの処分は内部で済ませる」とコメントしたことで一件落着かと思われたが、映像が流出して再び大騒ぎになっている。

『TMZ Sports』にリークされた映像からは、事前に伝えられていたような揉み合いはほとんどなく、ほぼ一方的にグリーンが殴っていることが分かる。練習中にグリーンがプールに詰め寄り、胸と胸が合わさったところでプールが押しのけると、次の瞬間にはグリーンが渾身の右ストレートをプールの頬にヒットさせ、倒れるプールを壁に押し付けている。

NBAでは練習中に選手同士の衝突がしばしば起こる。ウォリアーズ指揮官のスティーブ・カーも現役時代にマイケル・ジョーダンと練習中に衝突し、殴り合いのケンカになった。これは後にジョーダンが「スティーブがリスペクトに値すべき男なのかを試した」と振り返り、カーも「あの一件の後、彼は私を信頼してくれるようになった」と語り、個性派揃いのブルズがチームとして戦う上で必要だった衝突という『美談』になっているが、今は殴り合って友情を育む時代ではない。コート上の暴力を美談で収めるわけにはいかない。

今回、ウォリアーズはこの暴力沙汰を美談にこそしていないが、「良いことではないがNBAでは起こり得ること」として前進しようとした。だが、映像を見れば「内部で済ませる」という処分が軽すぎるのは明らか。ウォリアーズは映像を見た上でこの判断を下したはずで、その是非が問われるのは間違いない。

グリーンはウォリアーズが王朝を築く上で多大なる貢献をしてきた。スプラッシュ・ブラザーズがウォリアーズの看板であれば、勝利への強い意志を押し出してチームメートを鼓舞するグリーンは大黒柱だ。しかし、チームの輝かしい栄光で塗り隠されてはいるが、彼の荒っぽい振る舞いは今に始まったことではない。2016年のNBAファイナルでは、彼がレブロン・ジェームズを殴って出場停止になったことが、3勝1敗で王手をかけていた優勝を逃す要因となった。

今回、チームの大黒柱が9歳年下の若手を殴打した。グリーンがチームの功労者でなければ、長期の出場停止処分を科されても、あるいは一発で解雇されていてもおかしくない。

今回のケースが明るみになったことで、グリーンだけでなくウォリアーズも追い詰められた。これだけの蛮勇を振るう選手がリーダーであり続けることが正しいのか、世間の目はそこに向けられる。その一方で、グリーン抜きでチームの勝利はおぼつかない。

そして、チームの分裂も懸念される。マイヤーズGMが事件後に語った「少々複雑だが、良いヤツなんだ」という言葉は、あの映像を見た後ではとりあえず事を収めるための詭弁にしか聞こえない。さらに彼は「我々はこれを乗り越えて前に進む」と語ったが、非公開の動画が流出したのは、このまま前に進むことに強い違和感を持った誰かがチーム内部にいるからだ。

ウォリアーズは映像を流出された人物を捜索しているとされ、その人物が特定されれば解雇されるだろう。その人物が「少々複雑だが、良いヤツ」とされ「内部の処分だけで済ませて前に進む」で済むことはない。だが、その人物が面白半分で動画をリークするはずがない。グリーンの振る舞いに憤り、プールの心情に寄り添っての行動だろう。長くチームに在籍して行動をともにしてきた人から見るグリーンは「少々複雑だが、良いヤツ」なのかもしれないが、果たしてプールはそれに同意するだろうか? 若手の多くはこの一件を複雑な思いで見ており、それに同調する誰かが動画をリークさせたとしたら、問題の根は深い。

もちろん、この一件で最もダメージを負うのはグリーン自身だ。契約問題がプールとの諍いの発端となったと言われているが、この事件が明るみに出たことでグリーンが次に大型契約を手にする可能性はほぼ消えた。他のチームは彼の良い面よりも悪い面を見るはずで、ウォリアーズが提示する『それなりの契約』を受け入れるより他にない。グリーンもまた追い詰められたが、言うまでもなく自業自得だ。