女子ワールドカップ総括(後編)タイムシェアの徹底など、チーム方針における理想と現実の最適解を見出すことができるか

女子ワールドカップ総括(後編)タイムシェアの徹底など、チーム方針における理想と現実の最適解を見出すことができるか

2022/10/07 18:00
女子日本代表

オフェンスリバウンドにおける世界の戦術の変化に対処できず

女子ワールドカップ2022で金メダルを目標に掲げる中、1勝4敗でグループリーグ敗退に終わったバスケ女子日本代表だが、『5人が同じページでプレーする』といった目指す戦いができなかった背景には、相手の日本対策にアジャストできなかった部分が大きかった。

恩塚享ヘッドコーチは「特別な対応をしていると感じました。スカウティングで見ているのと違うプレーをオフェンスでもディフェンスでもしてきました」と語り、特にハーフコートで個の力勝負を徹底してきたと明かす。「一番象徴的だったのは、普段はフルコートバスケをしているチームも必ずハーフコートバスケをしてきたことです。とにかくガードに対するディナイで激しく当たってくることがまずありました。私たちのディフェンスは激しいプレッシャーをかけていきます。そのプレッシャーに対して戦術で対応してくれば、私たちもアジャストすることができますが、相手は手数を減らしてアイソレーションによる個人の力でこじ開ける戦いをしてきました」

「相手はオフェンスの間、ボールを止めて休んで戦っていました。(スター選手の1on1が増えていく)NBAファイナルのような攻めをされました。特にカナダ戦は、1on1の力だけでこじ開けられ、プルアップでシュートを決められる。これに対して今後どう手を加えていけば良いのか方法を探していきたいです」

指揮官が振り返ったように、相手にオフェンスで体力を回復されると、日本がトランジションを出すのは難しくなる。また、速攻が思うように出せなかった要因として、相手のオフェンスリバウンドに対する変化も大きかった。東京五輪では日本の攻守の素早い切り替え対策として、オフェンスリバウンドに入らない選択をするチームが多かった。だが、今回は真逆で積極的にリバウンドに飛び込んできた。

この変化の背景を恩塚ヘッドコーチは語る。「オフェンスリバウンドのクラッシュという技術が一般的になっています。今までオフェンスリバウンドはリングに向かっていくものと定義付けされていたことが多いと思います。それが自分のマークマンをゴール側に押し込んでいくことがオフェンスリバウンドの主流になっています。クラッシュすることで、たとえディフェンスリバウンドを取られたとしても、すぐにマッチアップしてそのままプレッシャーをかけることができます。私たちもトレーニングしていますが、他の国もやってきたんだろうと思います」

女子日本代表

不発に終わった頻繁に選手交代を行うタイムシェアの是非

東京五輪から1年以上が経過し、オフェンスリバウンドに限らず世界のバスケットボールの主流も着実に変わっている。4番、5番ポジションが外から積極的にシュートを打ってくるのは日本だけでなくなり、ローポストを攻撃の起点とするチームも減っている。そして恩塚ヘッドコーチは「フィジカルレベルが上がったことを一番感じます」と語る。

「これといかに戦っていくかが、すごく大きなテーマになると思います。フィジカルに対するアジリティ、心を鍛えないといけない。対策としては、シンプルに言うと先に当たるヒットファーストをしないといけない。先に当たられたら負けるので、1対1で抜く瞬間でも自分から当たっていくなどヒットファーストをいろいろな局面でやっていく。そういうのがカナダの選手は上手かったです。そこは個々の能力の高さをすごく感じました」

そして今大会の大きな敗因の一つとなったのは3分、4分単位で選手を頻繁に交代していくタイムシェアが上手く機能しなかったことだ。タイムシェアの利点として選手たちは常にフレッシュな状態でコートに立ち、強度の高いプレーを40分間ずっと維持できる。しかし、今回については良い流れが来ている時の選手交代によって、この流れを自ら断ち切ってしまうなどマイナス面も目立った。相手にハーフコートオフェンスでゲームテンポをコントロールされたことも影響しているが、前からプレッシャーをかけ続けるなど短い時間でエネルギーを使い切るような激しいプレーをすることなく、選手交代となるような場面も少なくなかった印象を抱いた。

もちろん、指揮官もタイムシェアのマイナス面は承知している。また、日本においてタイムシェアは一般的でなく、それこそ代表に選出されるトップ選手たちは中学、高校時代からWリーグに至るまで主力として試合の間ずっとコートに立つ環境でプレーしてきた。その中で、3分、4分で交代していく起用法に適応するのが難しい選手がいることも想定の範囲内だ。しかし、そういった状況を加味しても、身体能力で劣る日本が世界で勝ち抜くにはタイムシェアが大切になると強調する。

「私たちは体格やパワーで劣り、1on1のスキル能力でも世界のどの位置にいるかと考えれば、今のレベルではまともに対戦しても難しいのが現状です。だから常に100%のエネルギーを出して戦っていくスタイルを構築していきたい。波に乗れなかったり、せっかくオフェンスで良いリズムでいっているのに、と思っている選手はいると思います。次のレベルに行くために、今は大切にしているチャレンジだと伝えながら取り組んでいるところです」

「本当に世界レベルの高いインテンシティでプレーしたら、10分持つでしょうか。持っている力を短い時間で100%コートに出すことが、日本のバスケ界の発展にも繋がるのではないかと思います。今年のユーロバスケで優勝したスペイン代表は、15分から20分台のプレー時間で選手たちを回していましたし、世界がそうなっています。ただタイムシェアするのではなく、どれだけ高いエネルギーをコート上の5人が出せる状態を作れるかが今のテーマです。ただし日本の文化とは違いますし、慣れていない中で行っていることは、一つ乗り越えなければならない山です」

女子日本代表

自分で判断してプレーできる選手を作っていくために変えるべき文化

このタイムシェアに限らず、恩塚ヘッドコーチは女子バスケットボール界の進化のために変えるべき文化はしっかり変えるべきと考えている。「ベンチからプレーコールもできますが、今のバスケは速いです。流れの中で原則に基づいて選手自身で判断ができるようにしたいです」と世界で勝つために必要な選手像を語り、そういった選手を作り出していくには女子バスケ界を根本から変えていく必要があると続ける。

「ただ、ここには大きな壁があると思っています。よく言われるのは、日本の選手は自分で考える力がない。言われたことはやるけど、特に女子の選手は怒ってやらせないといけない。そういう背景、文化もあって自分で判断してプレーすること自体を今までやってきたことがない、難しいと思っている選手も多くいるかなと思います。僕はそこも変えたいです。これができるようになることが最強に近づく大きな鍵だし、これがベースになれば『言われたことをやれよ!!』という声が指導の現場からなくなっていくと思います」

選手の自主性を何よりも尊重する現場が日本全国に広がっていき、自分で考える力を備えた選手たちが増えていくことは確実に日本バスケ界の底上げに繋がっていく。恩塚ヘッドコーチが作っていきたい新しい文化は、日本バスケットボール界のさらなる競技力向上に必要なものだ。

ただ、文化を変えていくのは10年スパンの時間がかかるもの。確かにトップである代表選手たちが、あるべき姿を見せることはこれ以上ないお手本となり、新しい文化の浸透を一気に早める効果を持っている。一方で今の現役選手たちの多くは、タイムシェアや局面ごとに自分で判断してプレーする環境に馴染みがないのも事実だ。その選手たちとパリ五輪までのかなり限られた時間で、今の方向性のまま再びメダル争いに絡めるチームを作り上げることができるのか。今大会のパフォーマンスを見る限り、目指すべき理想を追い続ける中でも現状に即した様々な調整、ある種の妥協なくしてかなり難しいというのが素直な感想だ。

これからパリ五輪に向けて、果たして女子日本代表がどんなロードマップを描いていくのかに注目したい。恩塚ヘッドコーチの下で今のスタイルをブレずに突き詰めていくことになっても驚きはない。ただ、東京五輪の銀メダルで盛り上がった女子バスケへの注目度を維持していくためには草の根活動も大事だが、特に女子バスケ界は代表チームが勝つことの影響力は大きく、今の熱をキープしていくためには2年後のパリ五輪でベスト4進出のような結果が求められるだろう。だからこそ、今後の方針については指揮官ではなく、強化部門のトップが伝えるべきであり、それがトップの責務だと思う。

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