女子日本代表

2試合目のセルビア戦に敗れると、残り3試合もすべて同じ展開で力負け

10月1日に終了した女子ワールドカップ2022、日本はグループフェーズBで1勝4敗の5位に終わり、上位4チームが進出できる決勝トーナメントへの切符をつかむことができなかった。東京五輪の銀メダルを超える、世界の頂点を目標に掲げたことを鑑みると惨敗と言える。

今大会前、FIBA.comで公開されたパワーランキングの記事で日本は4位にランクインされていた。だが、グループフェーズ終了後は当たり前だが9位へと急降下し、そこでの記事は以下のように日本を評している。

かつての面影はなく、ここ数年のような規律はない。あらゆる面で彼女たちのアイデンティティーを思い浮かべるのは困難だ。いくつかスイッチディフェンスがうまく行っていたのはポジティブな面だが、オフェンスに関しては悲惨な状況だ。トランジションにおいてスプリントはなく、ガード陣が仕掛けるのに時間をかけて相手ディフェンスを落ち着かせてしまった。以前のようなボールムーブメント、キレのある動きとは程遠い状態だった。

こう書かれても妥当と言わざるを得ないのが今大会の日本のパフォーマンスだった。もう日本は世界のトップグループに位置するチームとは見られていない。この現実としっかり向き合うことが、チーム再建への第一歩として必要なことだ。

今大会、日本は初戦のマリ戦こそ3ポイントシュートが確率良く決まり89-56と快勝したが、2戦目以降の4連敗となったセルビア、カナダ、フランス、オーストラリア戦に関しては平均56.8得点、3ポイントシュートは105本中22本成功(成功率21%)に終わっており、日本の強みであるアップテンポで長距離砲を武器としたスモールボールを全く展開できなかったことが分かる。

結果論となるが、日本にとって大きなターニングポイントとなったのは2試合目のセルビア戦だ。相手の指揮官マリーナ・マルコヴィッチは昨シーズンまでの2年間、Wリーグのデンソーアイリスを率いて日本を熟知しており、その彼女の対策に完全にハマってしまった。まず2番、3番にハンドラー役がおらず、攻撃の起点として大きく依存せざるを得ないポイントガード陣に対して簡単にボールを持たせない、パスをさばけないように激しいプレッシャーをかけ続けた。また、これはギャンブル的な要素でもあるが、アンダーで守ることでペイントアタックを防ぐことを最優先していた。その結果、外からシュートを撃ちやすくはなったが宮崎早織、山本麻衣、安間志織のポイントガード陣が揃って3ポイントシュートの当たりが来なかったことで、相手ディフェンスに変更を強いることができなかった。そして、司令塔トリオは最後まで長距離砲に当たりが来ることはなかった。

こうして日本はハーフコートオフェンスにおいて、テンポ良くエントリーができなかった。たとえペイントアタックができても、仕掛けが遅いことでそこからの展開に十分な時間が残っておらず、崩し切れずにタフショットとなるケースが少なくなかった。また、セルビアは徹底したコントロールオフェンスで試合のテンポを遅くし、日本の得意とする走る展開に持ち込ませなかった。こうして日本の脆さを露呈したセルビア戦以降のカナダ、フランス、オーストラリアにも基本的に同じ戦術を取られ、そこへの対策も有効に機能することはなく、結果として同じような展開で敗れてしまった。

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「サポートの原則を一番大事にして練習してきたのに、そこを見失っていました」

ここからは恩塚享ヘッドコーチが今大会でどんな思いを抱いていたのかを紹介していきたい。結果が結果だけにここから指揮官の采配、チーム作りについては厳しい見解を語るが、一方で指揮官の真摯な態度には敬意と感謝しかない。取材対応も代表ヘッドコーチの責務の一つと捉え、最終戦となったオーストラリアの記者会見が終わった後、チームバスを先に帰らせて40分近くに渡りメディアの質問に丁寧に答えてくれた。

「率直に言うと、選手たちと日本のファンの皆様の期待に応えられずに本当に申し訳なく思っています。この経験をバスケ界が次に進めるためにどうすべきかしっかりと振り返って行きたい。私だけのものではない形で、日本のバスケ界のために共有していきたいです」

このように恩塚ヘッドコーチは大会を総括すると、さらにグループリーグ敗退の元凶となった自分たちのやりたいオフェンスを遂行できなかった理由を語る。

「オフェンスではポイントガードが起点になってズレを作り、そこを攻撃してその穴を広げていきたかったですが、ズレが作りきれない機会が多くありました。もう一つはリズムを失ったのか、自信を失ったのか分からないですが、ボールマン以外が攻めない。そこで孤立してしまうような状態が多く、その時にオフェンスが停滞してしまいました。今日の試合前にもビデオを見せてオフェンスの停滞感があった時に、この人がもしここにいたらシュートが打てるとか、この人がここにいたら苦しいシュートを選択することもなかったと伝えました。サポートの原則を一番大事にして練習してきたのに、そこを見失っていました」

また、指揮官は「5人が同じページでバスケットするのが私たちの強みです。そういうことを40分間やり続けられるように、というのが大事にしたいテーマ」と続けたが、今大会においてその強みを発揮できていなかったのは明白だ。

では何故、それができなかったのか。「東京五輪のチームより私たちの方が細かいバスケットボールをやっています。ただ、阿吽の呼吸になるまでに煮詰めることができなかった。こういうタイミングでボールマンがペイントタッチした時に、ディフェンスがこうなっているからこのタイミングでカットしよう、みたいなことをしていますが、試合の中で『その場面が今だ』と感じられるには時間がかかるというのが私の評価です」

このように分析した恩塚ヘッドコーチは、目指すスタイルを完成させるためのアプローチを見直すべきかという問いかけにこのように答えた。「テストゲームの時にはできていましたが、フィジカルやプレッシャーのかかる本番ではハッとなってしまって動きが停滞する。それは阿吽の呼吸で動けるレベルまでできていなかったというのもあるし、厳しい場面で経験して学んでいくしかないということもあります。どちらの側面も大事にしていきたいです」

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本番だからこそ得られた課題にどう向き合うか

前述のように、日本は起点となるポイントガードでズレを作れなかったことに対する備えが不足していた。もちろん今の日本に2番、3番ポジションでポイントガードのようにハンドラー役をこなせる人材がいないのは大きな課題だ。しかし、最終段階で代表メンバーから落選した本橋菜子はトム・ホーバス体制では、2番をこなせるコンボガードとして実績十分な選手だ。シューター役の吉田舞衣をほとんど起用しなかったことを加味すれば、ツーガード体制で使える本橋は、相手のポイントガードを徹底マークする対抗策として選んでおくべきだったのではないかと思わざるを得ない。

そして、当然のように練習試合と本番は全くの別物だ。これはワールドカップ2019、東京五輪の大会前に強化試合で強豪相手に好成績を残していた男子日本代表が、本番では厚い壁に跳ね返されたことで痛感したはず。本番で機能しなかったということは、シンプルに5人が同じページで動くことができていなかった。そこまでケミストリーを熟成させることができていなかったことの証左だろう。

「いろいろなチームや男子ともゲームをしましたが、本番で出てきた課題と質が違ったところが正直ありました。常に課題をクリアしながらステップアップしてきましたが、今大会で出た課題は今までとは違ったところがあります」

恩塚ヘッドコーチはこう振り返っており、確かに練習試合と本番が違うと分かって事前に準備をしていても、実際に経験しなければ分からないものはある。ただ、世界を勝ち抜くには大会中に生まれた課題を修正していく力も欠かせないはずだ。とはいえ、ワールドカップの大舞台だからこそ世界が突きつけてくれた日本の欠点は、これからの成長に向けた貴重な糧だ。そして「私だけのものではない形で、日本のバスケ界のために共有していきたいです」と指揮官も語っているように、東京五輪のテクニカルレポートのようなデータが一刻も早く公開され、それをバスケット界で共有する機会を作ってもらいたい。これこそ女子日本代表の立て直し、さらに女子バスケット界全体の底上げのための大きな手助けとなるのは間違いないだろう。