文=岩野健次郎 写真=高村初美

華々しいスタートを切ったBリーグにあって、2部リーグである「B2」はやや注目度が落ちるが、それでもB1所属クラブに劣らぬ実力を備えた強豪も存在する。その一つが広島ドラゴンフライズだ。初年度のB1昇格を虎視眈々と狙うチームを率いる「Mr.バスケットボール」こと佐古賢一ヘッドコーチに、チームの状況やバスケ界の話を聞く。

PROFILE 佐古賢一(さこ・けんいち)
1970年7月17日生まれ、神奈川県出身のバスケットボール指導者。中央大学3年次に日本代表入り。卒業後はいすゞ自動車リンクスに入団し、2002年にはアイシンシーホースに移籍して「プロ宣言」をした。ずば抜けた技術と勝負強さで数々のタイトルを獲得し、2011年に現役引退。広島の初代ヘッドコーチとして2014年から指揮を執っている。

B2西地区での上位争いを続ける広島ドラゴンフライズと島根スサノオマジック、11月19日と20日の2連戦は好勝負が期待された。ところが蓋を開けてみると、11月19日は74-51、20日は73-53と、ともに島根の大勝となった。広島にとっては自信喪失になりかねない悔しい結果となったが、試合内容や今後のチーム方針、また苦境を乗り越えるための「佐古流コーチ論」を佐古ヘッドコーチが語ってくれた。

下を向いている時間はない、課題を解決していかなければ

──非常に悔しい2連戦となりました。 

佐古 ライバルの島根に連敗だけは避けなければいけなかったのですが、厳しい結果になりました。キャメロン・リドリーという大黒柱のセンターの離脱を踏まえて、相当な覚悟を持って試合に入りましたが、島根も負けられない状況(熊本に2連敗、前節は愛媛にも1敗)で、我々の予想を上回る気迫やエナジーで素晴らしい戦いをした、というのが率直な感想です。 

──敗戦の最も大きな要因は? 

佐古 試合開始から島根の気持ちの入った激しいディフェンスに対応できず出鼻をくじかれました。最も警戒していた相手のオフェンスリバウンドも抑えることができず、そういった相手の激しいディフェンスやリバウンドに、自分たちのリズムを壊されたゲームとなりました。 

──リドリーがアキレス腱断裂で長期離脱となりました。

佐古 キャメロンのケガで、選手が普段とは違うポジションをプレーしなければならなくなりました。また、それぞれの選手の「やらなければ」という気持ちが強すぎて、空回りしてしまったこともあります。キャメロンのケガは大きなポイントでしたが、長いシーズンではケガは起きてしまうこと。一緒にいるメンバーで戦っていかなければいけない。コナー(ラマート)と(山田)大治のビッグマンでも十分戦える布陣だと思っています。

──立ち直るポイントをどこに設定しますか。

佐古 まずは今回の厳しい結果から、良いところと悪いところをしっかり認識することです。2試合目の後半は良いリズム、我々本来のリズムでプレーできました。これを1試合通してできるようにならなければ。選手も今回のビデオをしっかりと見て、ゲーム中に何が起きたのかを認識しなければいけません。悔しい試合を振り返るのは辛いことかもしれませんが、自分たちの成長のためには必要な作業です。下を向いている時間はありませんから、今回得た課題を解決していかなければいけない、と選手たちには伝えました。

親友のリドリーが長期離脱となったことで、これまで以上の活躍が期待されるラマート。

辛い時期に自分たちをひたすら信じて努力を続けること

──今回の連敗を受けて、チームでの方針変更などはありますか?

佐古 いえ、我々がやってきたことは間違っていないと思っていますから、チーム方針の方向転換はありません。それは選手たちに話しました。動きのタイミングとか、やっていることの精度をもっと高めることに専念するのが大事だと思っています。一番マズイのは、来週以降にこの気持ちを引きずってしまうこと。次回の試合までに課題をできるだけ修正するかどうかがポイントになるでしょう。

──この気持ちはどう切り替えますか?

佐古 2連敗は確かにキツいです。でも、あくまでリーグ戦60数試合の内のたったの2試合なんです。 今回の敗戦から得たものを自分たちの糧とするよう頑張っていけば、必ずシーズン終盤には素晴らしいチームになれる。だから、必要以上に自信を失う必要はありません。長いシーズン、山あり谷ありの人の一生と同じように、辛い時期というのは必ずあります。一番大事なのは、そういった辛い時機に自分たちをひたすら信じて努力を続けること。頑張るしかないんです。 

──試合中、選手の間でもかなりフラストレーションを溜めているシーンが見られました。

佐古 チームメートに対して、誹謗中傷とまではいかないけど、ネガティブなメッセージを伝える場面が起きかけました。私が選手に言ったのは、「そういったのは練習でやりなさい」と。練習中に解決できていないことを、試合中にフラストレーションが溜まっているからといって、言い訳を見つけるように相手のせいにするのは間違っている、と伝えました。全員が頑張っているけど物事がうまくいかない時に発生しがちです。ハードワークしている選手の気持ちも理解できます。ですが、試合がうまく行かない理由が特定の選手にあるわけではない。チームで戦うわけだから、そこは違うよ、と。誰一人としてサボっている選手はいないんです。フラストレーションがあったとしても、そのエネルギーの矛先は違う方向に向けられるべきです。

──島根に連敗し、もう一つのライバルである熊本ヴォルターズが単独首位に立ちました。これからどう巻き返していきますか。

佐古 今回、ベストに近い内容の島根さんと試合ができたのはとても良いことだったと思っています。我々にとって大きな課題がいくつも出てきました。ですから、もっともっとチームとして強くなるために、チームメート、スタッフ、そして自分自身を信じて日々努力を続けていきます。我々はシーズン終盤までには最高の仲間と最高のチームを作り上げます。島根とはまだレギュラーシーズンで2試合残っていますから、我々は今の状況から這い上がり、次は島根の胸を借りる気持ちで必ず借りを返したい。『必ず』です(笑)。

佐古ヘッドコーチは、苦しい時こそチーム一丸となること、自分たちを信じて努力することの重要性を説いた。