渡邊雄太のNBAデビューは日本バスケ新時代の序章にすぎない『雄太に負けるな!』

2018/10/30
NBA&海外
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渡邊雄太

文=泉誠一 写真=Getty Images、鈴木栄一

「日本代表を強くしたい」という信念が原動力に

2004年、田臥勇太が日本人初のNBA選手として歴史にその名を刻んだ時、街中で号外が出たと記憶する。今思い返しても、あの時にそれをもらえなかった悔しさが胸の中に残っている。それほどビッグニュースだった。すぐさま某テレビ局がNBAのライセンス獲得に動いたが、それを取得した時には契約が解除されてしまった。ガッカリしていたディレクターの顔を思い出す。

あれから14年の月日が経った。ようやく2人目が誕生し、ふたたび『YUTA』がバスケ人気を高め、賑わせている。うれしいニュースだ。しかし、思いのほか感動は薄かった。

渡邊雄太はNBAを夢見て海を渡り、アメリカの空気を吸ったことで夢は目標に変わった。ジョージ・ワシントン大学入学時、田臥がサンズの一員として最高峰の舞台に立ってからすでに10年の月日が経過しており、目指すべき道は荒れ果てていた。日々、草を刈り、道を耕すように、かすかな光に向かって努力し続けた。掲げた目標とは別に、「日本代表を強くしたい」という信念が原動力でもあった。その過程を見てきたからこそ、グリズリーズと契約した時からNBAのコートに立つのは時間の問題だと確信していた。デビュー戦が、尽誠学園と同じく見慣れたスカイブルーのユニフォームだったのも感動が薄かった一因かもしれない。

渡邊雄太

敵として、渡邊雄太をブーイングできる喜び

長年、または今年から新たにグリズリーズを応援するファンは渡邊雄太を歓迎し、楽しみが増えたことだろう。逆に、大敗を喫したことでデビューをアシストする形となったサンズファンの心境はいかに──そっちの方に興味が沸く。

日本のバスケファンの多くはNBAファンと言っても過言ではない。事実、バスケット・カウントのランキングを見てもNBAネタが占めている。渡邊雄太の快挙は、同じ日本人として誇りであるのは間違いない。しかし、グリズリーズファン以外のクラスタにとっては、敵であることも忘れてはならない。ちなみに筆者はウィザーズを応援して26シーズン目を迎えた。次戦、日本時間10月31日午前9時、早くもグリズリーズとの対戦が実現する。敵として、渡邊雄太をブーイングできることに喜びを噛み締めている。ついに、日本人選手がライバルとなる時代がやってきた。

14年前、もしかしてすでに対戦が実現していた? 2004-05シーズン、サンズで4試合出場した田臥の対戦相手をスタッツとともに調べて見た。

11月3日:サンズ 112-82 ホークス(10分出場、7点、1アシスト)
11月6日:サンズ 112-80 ネッツ(3分出場、2リバウンド、2アシスト)
12月13日:サンズ 121-100 マジック(2分出場、2リバウンド)
12月15日:サンズ 108-86 ジャズ(2分出場)

開幕戦でいきなり7点を挙げた衝撃を思い出す。『ハルコビジョン』のように、当時は田臥の一挙手一投足を見逃すまいと、対戦相手は気にも留めなかった。振り返れば、ホークスはケニー・アンダーソンやケビン・ウィルスがまだ現役だった。マジックにはグラント・ヒルもいる。そして、ウィザーズに移籍してきたドワイト・ハワードがマジックでルーキーシーズンを迎えていた、そんな時代である。あらためて田臥はすごい場所に立っていた。今なお第一線で活躍し、その勇姿を日本で見られることはとても幸せである。

田臥とウィザーズの対戦はなかったことがハッキリし、スッキリした。さて明日、渡邊雄太のアクティブリスト入りはあるだろうか? 我が愛息たちとのマッチアップが実現した時、真の感動がやって来て、涙するかもしれない。そのためにも我がウィザーズが大差をつけ、アイツが出られるようにお膳立てしてやろう。

渡邊雄太

ロジャーのような新時代の幕を開ける熱いメッセージ

「日本人がNBAでプレーするのは難しいと言われていますが、僕は日本人でもこのレベルでやれることを証明したい。今日の試合を日本の若い選手が見て、自分に続いてもらいたいと思っています」

今いる自分の場所はけっして高くはない。望めば届く場所であることを、ジョージ・ワシントン大学の時から後輩たちへ向けてメッセージを送り続けてきた。ついに最高峰の舞台にたどり着き、実体験を踏まえたその言葉に偽りはない。その場に居続けなければならない新たな目標に向かって、自らを鼓舞する言葉でもあったはずだ。

SNSに流れてきたこのメッセージ動画を見たとき、漫画『ワンピース』でゴール・D・ロジャーが大海賊時代を幕開けさせた場面が脳裏を過ぎる。この言葉を受けた日本のバスケキッズたちは夢としておぼろげに描いていたNBAを目標に変え、渡邊雄太同様に努力し、彼以上にバスケを楽しんでほしい。そうなれば、NBAで活躍する日本人が増える時代はきっとやって来る。何よりも来年には、日本人選手がドラフトで指名される可能性も高い。それを予期するような熱いメッセージに鳥肌が立った。

渡邊雄太のNBA入りは序章にすぎない。この機運に乗って、選手だけではなくバスケに従事する我々大人たちも、新時代に向けた準備をする必要がある。NBAや海外へ行く有望な選手たちをしっかりアシストするとともに、流出しなくても良いNBAと同等の魅力的かつレベルの高いリーグ環境を創造していかなければならない。応援するとともに、『雄太に負けるな!』が合い言葉。まずは明日、ウィザーズの勝利を全力で応援し、ブーイングしようと心に誓うのであった。

現地11月3日にグリズリーズの育成チームであるハッスルは開幕戦を迎える。この盛り上がりにより、Gリーグでプレーすることがマイナスとして捉えられてしまうかもしれない。もちろん、グリズリーズのベンチに居座ることが一番である。だが今は、Gリーグで思いっきりプレーし、暴れまくる渡邊雄太も早く見たい。