文=大島和人 写真=B.LEAGUE

13連敗中の富山、勝つためのチャレンジ「0」

最大のサプライズは試合前にあった。横浜国際プールで事前に発表された富山グラウジーズの外国籍選手オン・ザ・コートは[2-0-2-2]。Bリーグ初となる『0』の時間帯があった。

Bリーグは外国籍選手の起用枠(オン・ザ・コート)が4つのクォーターで合計『6』あるが、配分は0枠から2枠の範囲で自由だ。ただ各チームの選択は[1-2-1-2]と[2-1-1-2]に絞られている。横浜もこの試合は[2-1-1-2]を採用していた。大半のチームがインサイドのビッグマンを外国籍選手に依存していることを考えれば、かなり大胆で、興味深い富山の決断だった。

どちらにとっても、負けられない戦いだった。横浜ビー・コルセアーズは中地区の6チーム中5位。5勝を挙げていたがすべてアウェー戦で、ホーム未勝利だった。富山クラウジーズは最下位で、1勝13敗という残留のピンチ。9月24日の開幕戦で新潟アルビレックスBBを下して以来、まだ一つも勝てていない。

第1クォーターは横浜が良い出足を見せ、18-10とリードする展開だった。青木勇人ヘッドコーチは「選手たちが本当に素晴らしいスタートを切ってくれた。この1週間、出足を何とかしようとみんなで練習からやってきたところが出た」と説明する。ポイントガードの細谷将司も「僕がアップテンポの展開に持って行けば良いスタートを切れる。それを思い切り出せた」と振り返る。

注目の第2クォーターは、かなり極端な10分間になった。富山のボブ・ナッシュヘッドコーチ(HC)はオン・ザ・コート「0」に挑戦した理由をこう説明する。「負けていたからです。あらゆることにチャレンジして、それでも1勝13敗という結果だったので、新しいチャレンジを何かしようとなった」

かくして富山のインサイドは197cm100kgの嶋田基志と、196cm94kgの比留木謙司に任された。

比留木はもう少し具体的に、オン・ザ・コート「0」の背景を説明する。

「かねてからウチが問題としていたところは、帰化選手がいる時にやられるところ。その時間を少なくしようとするのが狙いです。オン・ザ・コート「2」でない時間を20分でなく10分にして、そこをいかに凌ぐか。日本人選手に関してはウチの方が動けるところが多い。ディフェンスのギャップができたとしてもローテーション、ダブルチームなどを使って凌げるのではないかと。そこが狙いだった」

奇策に戸惑いながらも勝ち切った横浜

横浜のオン・ザ・コートは[2-1-1-2]だったが、「1」の時間帯には身長200cmの帰化選手ファイ・パプ月瑠を起用できる。そのミスマッチが生まれる時間帯を半分にするという狙いはロジカルだ。ただ、富山は10分間をどう凌いだか?

富山がこの試合で記録したファウルの数は『26』。そのうち『15』が第2クォーターだった。嶋田、比留木はそれぞれ4つのファウルをしている。40分間に5ファウルを犯すと退場になるが、2人は10分間に絞って、戦略的にファウルを使った。

ナッシュHCも「相手のワイドオープンから簡単にシュートを打たれるより、ファウルをして、(横浜には)フリースローの得意でない選手がいるので、そこに打たせる狙いがあった」と意図を明かす。

富山が『狙った』のは、ファイ・パプ月瑠だった。彼は10分間で10本(40分間で11本)のフリースローを放ち、何と1本しか決められなかった。

フリースローの極端なスタッツは別にしても、横浜も戸惑っている様子が見て取れた。オン・ザ・コート『0』の活用を「予想していた」と口にする選手もいたが、ただ準備はほぼ皆無だったという。青木HCが「一番有利なところばかり見てしまうことが多かった」と振り返るように、インサイドのミスマッチを過剰に意識し過ぎて、攻撃のバランスを崩していた。

第2クォーターに限るとスコアは23-19。横浜の4点リードだった。しかし富山にとっては外国籍選手不在でこの結果なら悪くない。

試合後のナッシュHCは言葉少なで、表情も硬かったが、それでも「第3クォーター、第4クォーターに向けて良いクォーターを作れたのは、日本人選手の頑張りのおかげ。第2クォーターについては良かった」と口にしていた。比留木も「第2クォーターだけ見れば大成功だと思いますよ」と言い切る。

しかし比留木はこう続ける。「我々が外国籍選手をフルで使えるというところでアドバンテージを取りたかった。しかし結果だけを見れば第3クォーターがタイ。第4クォーターがマイナス7点。成功とは言えないですね……」

富山はオン・ザ・コートが「2対1」となる第3クォーターを19-19で終え、点差を詰められなかった。横浜は第3クォーターに5ポイント、第4クォーターに9ポイントを挙げたジェフリー・パーマーの活躍もあり、富山を寄せ付けない。

第4クォーターの合計は85-66。横浜が快勝し、ホーム初勝利を挙げている。富山の興味深いチャレンジは実らなかった。