常に崖っぷちの戦いを4年間続けて、一度も崖から落ちていない
2018年、ネッツの一員としてサマーリーグに参加した渡邊雄太は、当初こそ若手の中でもベンチスタートでしたが、限られたプレータイムで結果を重ねるうちに主力に据えられ、終盤になると渡邊用のプレーがセットされるまで評価を高めました。当時のネッツはドラフトで19歳のウイングを2人指名していたこともあり、2ウェイ契約すらオファーはありませんでしたが、サマーリーグで見せたディフェンスでの奮闘と、全力で動き回る運動量、そして戦術へのアジャストといった要素は、単なる結果以上にネッツのフロントに好印象を与え、巡り巡って今回の契約にも影響を与えたはずです。
渡邊が結んだのは無保証のキャンプ契約であり、今回もテストされる立ち位置であることに変わりはありません。今オフのネッツはロイス・オニールとTJ・ウォーレンを獲得しており、複数のポジションを守れるディフェンス力を持ったウイングを求めています。他にも2年目のデイロン・シャープやケスラー・エドワーズなど、似たようなタイプのウイングを集めており、渡邊もニーズに合致したと言えます。
しかし、無保証契約のため、渡邊の立ち位置は彼らの『ライバル』というよりは、ケガ人が出た時の『補充要員』であり、よほどの活躍を見せない限りポジションを奪い取るのは難しいでしょう。むしろ渡邊の『ライバル』は、チームにはいないセンターと、契約が保証されていないエドモンド・サムナーらのガード陣になります。
現状のロスターはフィジカルなセンターが足りていませんが、これは機動力のあるラインナップを好むスティーブ・ナッシュの特徴に合わせた構成で、ビッグマンを置かずにウイング陣がリムプロテクトやリバウンドを担当することになります。この役割を渡邊がしっかりとこなし、「センターはいなくても大丈夫」と認識させれば本契約に近づくことになります。
逆にガードは多すぎるくらいで、ベン・シモンズ、カイリー・アービング、ケビン・デュラントが揃っているチームなだけに、ハンドラータイプではなく、ディフェンスやシュートに特徴のある選手が多くなっています。言い換えれば、ガード以上の運動量を発揮し、しっかりと3ポイントシュートを決めれば、ガードを削って渡邊を優先する可能性は十分にあります。結局は、これまでの4年間やってきたことを継続して積み上げていくだけです。
現状のサイズやポジションバランスを考慮すると渡邊は開幕ロスターに残りそうですが、実際には及第点に達しなければ、新たな選手と入れ替えられるだけです。本人のコメント通り、常に崖っぷちの戦いが続きますが、そんな戦いを4年間も続けて一度も崖から落ちることなくNBAで戦い続けているだけに、今回もロスター入りを果たしてくれるでしょう。