2試合連続で『ゲームチェンジャー』の役割を果たす
8月14日、バスケットボール男子日本代表はイラン代表と強化試合を行い80-58と快勝した。今日の日本代表は82-77で競り勝った前日以上に平面での激しいプレッシャーによる堅守が光り、合計で13のスティールを奪い、23のターンオーバーを誘発した。
もちろん今回のイラン代表は大半が代表経験の乏しい若手メンバーであり、アジアカップで対戦したチームと比べて大きく劣ることを加味しないといけないが、チーム全体でより連携の取れたディフェンスができていたことも確かだ。そして、2試合ともに守備のギアを上げるプレーを披露したのが河村勇輝だ。
「ハードなディフェンスと、試合の流れを変えるゲームチェンジャーの役割を求められています」。こう自身のやるべき仕事を語る河村は、15分40秒のプレータイムで5リバウンドに3スティールと期待にしっかり応えた。彼のディフェンスについては、指揮官トム・ホーバスも「当たり前のことであまり言いたくないけど、彼のスティールとか、オンボールプレッシャーは特別です」と、絶大な信頼を置いている。
そして河村本人もディフェンスに関しては確かな手応えを得ている。「アジアカップの時はオフボールのところでやられていた部分がありましたが、1対1については負けない自信はあります。高さの部分で問題点はありますけど、平面だったりフィジカルの部分では戦えると思っているので、今後もコンタクトを嫌がらずに戦っていきたいです」
課題はシュートの積極性、指揮官「彼はシュートもあるのに何で打たないんだと思う」
ノーマークの味方を見逃さずにパスを供給して5アシストを挙げた河村だが、一方でオフェンスの積極性に欠け、試合途中にホーバスヘッドコーチの怒りを買ってサイドラインで注意を受ける場面もあった。
ホーバスヘッドコーチはこのように振り返る。「何でか分からないですが、彼は全然リングを見てなくて、パッシングばっかりのポイントガードになっていました。それは良くないので注意しました。(アタックをしていないから)途中から彼のマークマンはずっと下がっていました。それではドライブもできないし、ウイングの選手もスペースがなくてカッティングもできないので交代して注意しました」
「彼はシュートもあるのに、なんで打たないんだと思う。なんかちょっとルイ・マチダっぽい(笑)。でも、そこを注意してもう一度、試合に出した後で彼は2回ぐらい打ちました。入るから打った方がいい」
ちなみに河村はこの場面について次のように語る。「空いている状況でシュートを打たないと逆に自分の強みであるドライブやパスが生きないぞと言われました。僕もそうだと思いますし、空いたら打たないといけないと思いました。自分の役割はドライブだったり、周りの選手を生かすことなので、シュートを躊躇したのではなく、そっちに意識が行っていた部分が大きいかなと思います」
「チームを引っ張っていける選手にならないといけない気持ちになっています」
課題もあったが、この2試合とも河村は安定したプレータイムを獲得している。チームの中心選手であるエースポイントガードの富樫勇樹に次ぐ2番手の地位を確立したように見える中、ホーバスは今月末に行われるWindow4におけるポイントガードのメンバー争いをこう明かす。
「アジアカップはテーブス(海)を呼びました。彼は身長が高く、力もある。彼も良いバスケをしましたが、アジアカップとその前の合宿においては河村の方が勝っていたと思いました。だから、河村のバスケットをもうちょっと見たくて今回のメンバーにも選びました。3番手について、今回は岸本(隆一)のロングスリーとかを見たかったです。コー・フリッピンは昨日にポイントガードをやりましたが、彼は大きいしディフェンス力があります。彼は1番、2番ができるハイブリッドな選手でルカ・ドンチッチではないですけど、相手に大きなポイントガードがいた時に安心します。いろいろなことを考えていて、誰を選ぶのか難しいです」
代表で実績を重ねていくことで、河村には次のような意識の変化が起こっている。「こういう風にアジアカップだったり、ワールドカップ予選を経験する中でチームを引っ張っていける選手にならないといけない気持ちになっています。また8月末にはWindow4のメンバーに選ばれるように頑張っていきたいです」
そして、チームファーストを優先する河村だが、一選手として代表でもさらなる高みを目指す気持ちは持ち続けている。「若手として今、すごくいろいろなことを経験させてもらっている立場です。でもプレーヤーである限りは勝負どころの大事な場面でいつでも出られる準備はしています。今はトムさんにそういう選手だと思われていないのが現状だと思うので、そういった場面でも任せられる選手になるしかないです」
河村は、代表にとってディフェンスの大きな武器となっていることをこの2試合で証明した。今度はオフェンス面で味方を生かすだけでなく、自らも得点を挙げていくアグレッシブさを発揮し、より総合力の高い選手へと進化していってもらいたい。それができる能力の持ち主であることは、ホーバスヘッドコーチだけでなく学生時代から彼の姿を見ている多くのバスケットボールファンが分かっているはずだ。