「自分の良さを忘れずに、キキさんの分まで」
バスケットボール女子日本代表が東京オリンピックで銀メダルを獲得したことは記憶に新しく、現在も色褪せない。当時、チーム最年少だった東藤なな子はその後も代表に呼ばれ続け、今となってはチームに欠かせない存在感を放っている。
「オーストラリア遠征と親善試合のトルコ戦を終え、3回目の海外の選手との対戦になります。その2回で学んだ守備もオフェンスももっとレベルアップできることがあるので、それを次の試合で出せるようにしたいです」
このように8月11日、12日に開催されるラトビアとの強化試合に向け意気込んだ東藤だが、後輩ができたことで以前よりも責任感を持つようになったと明かした。「オリンピックで私は最年少だったので、先輩方からたくさんのことを学びましたが、オリンピックが終わった時にそれを後輩に受け継いでいかなきゃいけないという責任感がすごく湧きました。自分自身もオリンピックを経験してゲームの運び方や、気持ちの持ち方で成長したし、今回も後輩に受け継いでいきたいです」
東藤の魅力は自分より大きな相手にも当たり負けしないタフなディフェンスと、スピーディーかつパワフルなドライブで、「3ポイントシュートなどの外角が課題」と自己分析する。女子日本代表の中で最も信頼されるシューターの林咲希がケガのためワールドカップ本大会への出場が厳しい中、恩塚亨ヘッドコーチは林の穴を埋めてくれる存在として東藤の名前も挙げていた。ただ、彼女の穴を埋めようと気負い「自分を見失った」という。
「オーストラリア遠征前の合宿の時、自分の役割はドライブだったけど3ポイントシュートも求められ、ピュアシューターのキキさん(林のコートネーム)もいないので3ポイントシュートを意識しすぎてしまったことがありました。キキさんみたいになろうとしすぎると、自分を見失うという経験をしました」
自分の強みを生かすのではなく、その人のプレーに寄せようとするとどこかで不協和音が生じ、本来のパフォーマンスを発揮できなくなってしまうことは多々ある。東藤のそれはまさに典型的な例だが、この経験がさらなる飛躍を生んだ。「オーストラリア遠征ではバランス良く、カウンターを意識しながら3ポイントシュートも打てていました。自分の良さを忘れずに、キキさんの分までという気持ちを持ちながらやっています」
『誰かの代わり』ではなく、『誰かの分まで』というマインドでプレーした東藤は、オーストラリア遠征の初戦で27得点を挙げる大活躍を見せた。奇しくもその試合は赤穂ひまわりががファウルトラブルに陥っており、『赤穂の分まで』を見事に体現していた。ラトビア戦で林が出場できないことは日本にとって痛手だが、東藤を筆頭に彼女の分まで最高のパフォーマンスを見せくれるはずだ。