Bリーグが開幕し、日本のバスケットボール界が大きく変わりつつある今、各クラブはどんな状況にあるのだろうか。それぞれのクラブが置かれた『現在』と『未来』を、クラブのキーマンに語ってもらおう。
「東京を地元だと思っている人はたくさんいるはず」
稲葉 Bリーグの他のクラブと同様に、アルバルク東京も『地域』をテーマとして掲げています。ただ、東京というのは広いし人口も多くて、他の都市とは段違いに多様性に富んでいて、『地域』の一言では収まりが悪いのではないかと思いますが、そのあたりはどう考えていますか?
林 東京と言うと、いろんなところから人が集まっていて『地域』という言葉が馴染まないと思われますが、私は東京都出身で、52歳までの大半をこの東京で過ごしてきて、東京を地元だと思っています。そのような人もたくさんいるはずです。どうしても『ホームタウン』という気持ちが希薄に感じられるのかもしれませんが、そこは我々がどう見せていくかによるものと思います。
稲葉 強みもあるけれど難しい部分もある、ということですね。
林 そうですね。『東京らしい』とは何かと考えると、日本の首都であり、かなりの人口が集まってもいて、いろんなものの発信基地であることは間違いないんです。魅力的なコンテンツがいくらでもある東京で、我々は熾烈なコンテンツ争いの中で勝っていかなければいけない。「東京に住んでいるんだから、東京を応援しなさいよ」という地域性だけでは引っ張っていけないかな、という思いはあります。
稲葉 そんな状況の中、地域密着はどう進めていきましょうか。
林 我々は地域のコミュニティの中心的な役割を担うスポーツクラブでありたいと思っています。バスケは学校の体育種目で、中高のバスケットボール部というのは男女ともに87%の設置率があるそうです。男子も女子も部活動の設置数としてはベスト3に入ってくる。それだけ普及している競技なので、地域密着との親和性は高いはずです。例えばバスケットボールチームの活動に、我々の選手やコーチが行くとか。「スポーツをやるなら、アルバルク東京に一度相談してみようか」と思ってもらえる位置付けになることができれば、社会の中で違和感なく、地域に貢献していけると思っています。
「アルバルク東京からNBAに選手を送り出したい」
稲葉 中長期的な視点に立って、何かやろうとしていることはありますか?
林 私はBリーグの理事もやっていまして、先日、『中長期でどうしていくか』のアイデアを話し合った時に、『プロを目指す若年層の人を増やしたい』という話になりました。64万人いる競技人口の9割が高校生以下なんです。多くの人が高校でバスケを終わりにしてしまうので、大学、社会人で急激に競技人口が減る。プロを目指して続けようとしても将来の保証がないからです。支配下選手が少ない競技でもあるので、ずっとプロであり続けるのは難しい。
稲葉 厳しい状況なのは確かですが、どんなアプローチをしますか?
林 セカンドキャリアの制度を作りたいです。それは協会やリーグの役割かもしれませんが、クラブとしても取り組んでいかないといけません。端的に言えば、ユースの指導者やフロントなど、引退後に働く場をクラブで見つけられる、ということです。これからプロとしてやっていこうとする時に引退後のことを考えていてはいけないのかもしれませんが、でもそう遠くない将来に必ず訪れることなので。だからアルバルク東京としては、まず強豪であること、地域で愛されること、そして安心してプレーできる環境があること、が大切です。
稲葉 当然、それだけの体制を整えれば、クラブとしてリターンも得られるという計算もありますよね。
林 将来的にはNBAだとか世界のトップクラスに、アルバルク東京から選手を送り出していける強豪クラブになりたいです。アルバルク東京で鍛えたから海外に行けた、という選手が出てくれば、「自分もそこで実力を高めよう」と考える選手が来てくれるはずです。
稲葉 私のところでもJリーグの選手をマネジメントしているのですが、スポーツマネジメント会社の社長って、選手のことを資産的に考える人が多くて、引退した先のことまで考える人はあまりいないように思います。その魂はどこから来ているんでしょうか。
林 私が大学を卒業した時はまだJリーグがありませんでした。当時の同志社大は関西では強豪チームだったのですが、そこでやっている選手が社会人のチームから誘われても、将来どれだけ報われるか分からないから、そこでサッカーを断念してしまうケースが多かった。上のカテゴリーを目指していくとなると、やはり不安があるわけです。
稲葉 バスケットボールでも同じということですね。
林 「将来性がない」の判断でバスケを引退されてしまうのは、日本のバスケ界に貢献できる選手の機会を奪うということです。これは大きな機会損失ですよね。プロの世界にチャレンジしても3年でクビになるかもしれない。その時はまたイチから次のチャレンジを探していくのか。理想論としては、「それはこちらに任せて、バスケットに集中してよ」と言えるクラブを作りたいんです。ここまで考えてあげることが、バスケット界の底上げになるはずです。
アルバルク東京 林社長に聞く
vol.1「それぞれの専門分野での経験をどうまとめ、結束力と付加価値をつけていくか」
vol.2「我々は東京という熾烈なコンテンツ争いの中で勝っていかなければいけない」
vol.3「ただ単に1万人入りますとか、ビジョンがすごいですとか、それは二次的なこと」
vol.4「お寺を見て爆買いして東京観光が終わりでは『興奮』が足りない」