過酷なNBAでの戦いを終えた後での代表活動だが「楽しくてしょうがない」
アジアカップ2022、男子日本代表はベスト8進出決定戦でフィリピン代表と対戦。日程の関係から国内リーグに所属する中心選手たちが揃って欠場し、Bリーグなど海外でプレーする若手中心の相手に対して102-81と快勝した。
この試合、日本にとって大きかったのは完敗を喫した前回のイラン戦とは違い、ペイントアタックを積極的に仕掛ける強気のプレーを最後まで貫けたこと。この良い流れを作り出したのは渡邊雄太で、前半だけで12得点9リバウンドを記録。そして第2クォーター終盤、フィリピンが追い上げてきてリードが1桁に縮まりそうになった時、渡邊が連続得点を挙げ50-34で前半を終えられたのは大きなポイントだった。
その後、第3クォーター残り7分に渡邊はドライブを仕掛けた際に転倒し、右足首を痛めて無念の負傷退場。ただ、残りの選手たちが渡邊の示したアグレッシブな姿勢をしっかりと受け継ぐことで日本は勝利した。
負傷後、車椅子に乗ってロッカールームへと下がっていった渡邊だが、試合終盤にはベンチへと戻り、右足を引きずりながらも松葉杖なしで歩く姿を見せてくれた。ただ試合後、非常に残念ではあるが「もう終わりですね」と、ベスト8以降の見通しを明かした。故障という消化不良の形でアジアカップでのプレーが終わってしまうのは、渡邊にとってやりきれない思いがあるだろう。だが、長く過酷なNBAでのシーズン終了後に合流した代表活動を「楽しくでしょうがないです」と語った。
「僕は試合に出てナンボ、試合に出たい人間です。代表で新しいチームメート、コーチと全く違う環境にアジャストするのは簡単ではないですが、1月にコロナにかかった後、NBAでほとんど試合に出られずにいた方がバスケ選手としてはしんどいです。だから代表活動は楽しいです。ここからありえないくらい回復できたら試合に出られるかもしれないですが、これで終わっちゃうかと思うと寂しくて仕方がないですね」
「本大会の代表に確定している選手は誰もいないと思うので、これから本当に楽しみです」
渡邊は激しく当たってくる相手に対し気圧されることなく立ち向かい、プレーの強度を上回れたことは大きな収穫だと言及した。「フィリピンはいつもハードにプレーしてきます。そういうチームに対して嫌がったり、フィジカルで負けて相手のペースにしてしまうのは日本の弱い部分の一つでした。この試合では特に若い選手が、相手のコンタクトに嫌がらずにプレーしていて、それは見ていて誇らしかったです」
このように渡邊は若手のステップアップに大きな手応えを感じている。そして、日本代表の大黒柱として例えコートに立てなくても、「このチームのリーダーとして、次の試合に出られたらベストですけど、出られなくてもサポートに回って外から声をかけていきます」と、次のオーストラリア戦に向けて全力でチームを支えていく考えだ。
「(富永)啓生、河村(勇輝)と20代前半のうちからオーストラリアのような素晴らしいチームと対戦できる経験は、絶対に今後に生きてきます。二人以外にも、西田(優大)は今回の代表合宿に参加するまで正直知らない選手でしたが、一緒にやってきてかなり良い選手だと思います。吉井(裕鷹)はいつもファイトしてくれていますし、(井上)宗一郎もビッグであれだけシュートが打てるのは武器になります。他の選手にしても良いところがたくさん見えてきています」
このように渡邊は、若手選手たちの成長を頼もしく感じており、だからこそ来年のワールドカップ本大会に向け、代表争いはより激しくなると見ている。「選考は大変になってきてベテランの選手たちもうかうかしていられない。本大会の代表に確定している選手は誰もいないと思うので、これから本当に楽しみです」
試合に出られないのなら治療を最優先し、一足先にチームを離脱することも考えられる。NBAを主戦場としている選手ならなおさらだ。しかし、渡邊はその選択をせず最後までチームに帯同する考えを示してくれている。一緒にプレーできなくとも彼と少しでも多くの時間を過ごし、その考えに触れられることは代表の次代を担う若手選手たちにとってかけがえのない経験となる。そして、何よりも渡邊の代表に対する忠誠心の高さは、本当にチームにポジティブな効果を与えてくれる。その卓越したプレーはもちろんのこと、優れた人間力を持つリーダーとしても、渡邊は絶対に欠かせない存在であることがあらためて分かる彼の言葉だった。