佐々宜央

「竜三さんが積み上げてきたものが、途切れてしまったらもったいなさ過ぎる」

昨シーズン、宇都宮ブレックスはBリーグ初年度以来となる頂点に立ったが、抜群の統率力でチームを一つにまとめ上げた安齋竜三ヘッドコーチが優勝を置き土産に退任という大きな衝撃があった。2017-18シーズン途中からのヘッドコーチだけでなく、選手、アシスタントコーチ時代を含めると実に15年間も宇都宮に在籍していた安齋は文字通りチームの顔だった。その後任を誰が務めるのか大きな注目が集まったが、宇都宮が選択したのは継続路線で、佐々宜央アシスタントコーチの昇格となった。

佐々といえば東海大学でコーチのキャリアを始めると、その後、日立サンロッカーズ、宇都宮でアシスタントコーチを務めると共に、ユニバーシアード代表、フル代表のアシスタントコーチも担ってきた。そして2017-18シーズンから琉球ゴールデンキングスのヘッドコーチに就任すると2年連続での西地区優勝、チャンピオンシップのセミファイナル進出を果たしたが、3年目のシーズン途中に退任。当時、琉球は地区上位の成績を残していただけに、様々な事情があったにせよチームを去ったのは大きな衝撃だった。その後、宇都宮に復帰し、今回の新ヘッドコーチ就任となっている。

佐々は鎌田真吾GMと一緒に出席した就任会見の第一声でこのように語った。「2013年に初めてブレックスで仕事をさせていただき、まさか自分がヘッドコーチになるとは思いもしなかったです。今でもちょっと驚きと、『現実なのかな?』というところにいながら毎日を過ごしています。この決断に至るまでに迷いはありました。容易い仕事でないのは分かっています。ただ、ここにいる鎌田GMや今いる選手たちと話して、このチームの指揮を執りたいという思いになりました」

佐々にとって安齋は長年、苦楽を共にした盟友だ。だからこそ、今回の退任を予感していたところもあったという。「直々に本人から退任を話してもらったのは多分3月くらいです。ただ昨シーズン、僕にいろいろと現場で任せてくれる幅が大きかったので感じるところはありました」

そして二人三脚で歩んできたからこそ「正直、最初は僕も一緒に辞めようと思っていました」と明かす。ただ、ここで宇都宮に残ることを決断したことも安齋との深い繋がりがあったからだ。安齋の側にずっといたからこそ、彼が作り上げてきたものをチームにレガシーとして継承し、進化させたい。そのためには他の誰もなく自分が後任になるべき、という決意が芽生えた。「終わらせるのは簡単で、継続していくのは難しいです。ただ、ブレックスネーション、ブレックスメンタリティという竜三さんが積み上げてきたものが、新しいコーチになって途切れてしまったらもったいなさ過ぎると熱くこみ上げてくるものがあり、自分がやるしかないという気持ちになりました」

そして今いるメンバーたちへの愛着、信頼も大きな決め手となった。「今チームにいるこんなに素晴らしい選手たちと一緒にできる機会はなかなかないです。彼らと一緒にやりたい。やってやろうという思いです」

佐々宜央

「どれだけ人に仕事を任せられるかがリーダーとして大事だと今はすごく思います」

冒頭で触れたように佐々にとってヘッドコーチを務めるのは二度目となる。前回の琉球時代はその唐突な終わり方を含め良くも悪くも様々な経験を味わった。当時の彼はリーダーとしてどうあるべきなのか、その理想像を探してもがき続けていたが、今は一つの明確なビジョンがある。「キングスでヘッドコーチをやらせてもらった当時は初めてで、自分でやらなければいけないという気持ちがすごく強く、リーダーシップとは何だろうといろいろなことを勉強したり、話を聞いたりした時期でした。そしてブレックスに戻って安齋さんを見てきて、昨シーズンに自分が責任を持たせてもらったように、どれだけ人に仕事を任せられるかがリーダーとして大事だと今はすごく思います」

「キングスの時は自分でなんでもやろうという気持ちは強すぎた反省があります。それが昨シーズンは田臥(勇太)さん、遠藤(祐亮)、ナベ(渡邉裕規)とずっと一緒にやってきたメンバーがいたこともあるかもしれないですが、アシスタントをやる中で選手により相談ができるようになっていました。みんなで話し合ってスタッフ、選手にしっかりと役割を与えながらチームを作り上げていき、最終的にヘッドコーチが判断する。そういうリーダーシップを取りたいです」

この目指すべきヘッドコーチ像を踏まえ「継続しようとしても自分の色は出てしまうもので、そこを進化に繋げていきたいと思っています。ヘッドコーチとしてみんなの良さを出してあげたいです」と、意気込みを語る。また、自分たちは王者であるが、同時にチャレンジャーであることを強調する。「優勝はしていますが、レギュラーシーズンの勝率は全体6位でした。この順位を上げ、ホームでチャンピオンシップを迎えられるチームにしていかないといけないです」

そして、チームの強化ポイントを次のように見ている。「去年は波が結構ありました。スタートからバックアップに変わるところでうまく試合が運べない面がありました。最終的にはベンチからチェイス(フィーラー)が非常に活躍してくれましたが、課題はありました。セカンドユニットの深み、バリエーションでどれだけ強みを発揮できるかは勝率を上げてくるために必要です」

佐々宜央

注目の新アシスタントコーチは旧知の人物

チームの底上げの助けとして、佐々が白羽の矢を立てたのは新アシスタントコーチのモー・アベディニだ。これまでイラン国内のチーム、イラン代表でコーチを務めてきたが、「僕はモーと呼んでいます」と佐々にとっては旧知の間柄だ。「ユニバーシアード、フル代表とアシスタントをやっていた時、今と違って試合をダウンロードできないのでスカウティングで国際大会がある時は連日、相手のビデオを録りに行っていました。そこでいつも隣の席が、イラン代表のアシスタントでスカウティングをやっていたモーでした。イランとフィリピンはスカウティングのスキルがすごく長けているので、途中から情報交換をするようになり、2013年の頃から仲の良い友達ではないですが、ずっとやりとりをしていました。すごく相談できる相手です」

また、アジアのバスケ事情を熟知するアベディニの情報力はBリーグ王者として、アジアを舞台に戦う宇都宮にとって大きな助けとなる。「彼はコーチの知り合いが各国にいます。これまでのスカウティング力から韓国のチーム、台湾のチームの選手をよく知っています。東アジアスーパーリーグを戦う上でも、そういった面は助けになります」

新シーズン、宇都宮は主力の大半が残留しており、リーグ連覇への大きな期待を背負ってのスタートとなるが、佐々は冷静だ。「最初から簡単に上手く行くとは思っていないです。現実的に考えて竜三さんがいなくなるのはこのチームにとって大きすぎます」

一方で、「どんな状況になっても心に炎を灯して戦います。会場では常に120%の佐々を出すのを約束するのでそこは見ていただきたいです」とコート上で大きな声を張り上げてチームを鼓舞していく姿は変わらないと確約する。

継承と進化、宇都宮をもう一つ上のステージへと導くためにこの2つの難題達成に挑む指揮官が、どのようにチームを導いていくのか。しっかりと観察し続けていきたい。

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