クイン・スナイダー

洗練されるほど楽になったジャズ対策

NBAは少し不思議なリーグで経験豊富なヘッドコーチではなく、新人ヘッドコーチが優勝することが多く、近年でもスティーブ・カー、タイロン・ルー、ニック・ナースがヘッドコーチ就任初年度に優勝しており、今シーズンもイメ・ウドカがファイナルを戦っています。フランク・ヴォーゲルもレイカーズでの初年度に優勝しており、同じヘッドコーチの下で同じ戦い方が熟成されるよりも、従来の戦い方に変化をもたらす方が勝利に近づく傾向にあります。

辞任したクイン・スナイダーは『リーグ最高レベルのヘッドコーチ』としてジャズを率い、常に好成績を残した一方で、シーズンを重ねるほどにプレーオフでは勝てない雰囲気が漂っている『リーグで最も対策されたヘッドコーチ』でもありました。あまりにも美しく、あまりにも儚いスナイダーのジャズは終わりの時を迎えました。

ピック&ロール中心のシンプルな組み立てながら、コートを広く使ったスペーシングとディフェンスの動きに応じた適切なオフボールのポジション変更で、一つの動きにチーム全体が連動していくジャズのチームオフェンスは、見事なボールムーブで鮮やかなまでに機能していきました。また、チームだけでなく個人の強みを生かした突破も混ざるため、各選手の個性も反映された美しさも持ち合わせています。ルディ・ゴベアのようにオフェンススキルは低くても、特殊な武器を持った選手を戦術に嚙み合わせただけでなく、細かいポジショニング、身体の向き、ステップワークなどを毎シーズン向上させていくのも見事でした。

戦術構築だけでなく、個人のディベロップメントの部分でもスナイダーの優秀さは輝いており、当初は個人技で点を取るのが仕事だったエースのドノバン・ミッチェルは、ワンプレーの判断力を磨き続け、今ではチーム全体をオーガナイズし見事なパス能力も見せています。他に類を見ないほど論理的に構築された戦術は、シーズンを重ねるごとに洗練され、余計なものが削られ、芸術的なバスケットへと昇華されてきました。そして洗練されるほどに相手チームにとってはジャズ対策は楽になっていき、プレーオフでの敗退へと繋がっていきました。特にディフェンス面で最大の強みであるはずのゴベアを、弱点としてアッサリとひっくり返されてしまい崩壊し続けていました。

スナイダーのバスケットは研究しつくされています。思い返してみるとスナイダーのジャズが最も強かったのは、ルーキーのミッチェルを中心とした新しいチーム作りが始まったシーズンでした。当時オフェンスを構築していたリッキー・ルビオは、シュート力やディフェンスなどプレーの精度や強度が足りていないポイントガードではありましたが、プレーに変化を与える判断ができたため、強い戦術に柔軟性も備わっていました。ケガによりビッグマンがいない状況で戦った試合もあり、細かい修正が繰り返されたシーズンでもありました。チームが熟成されていないからこそ、多用な戦い方ができていたと言えます。

ジャズはミッチェル以外の主力についてトレードを画策しているとも伝えられています。このチームが限界を迎えていたことは理解できるものの、もしも選手の顔ぶれを変えるのであれば、スナイダーほど優秀なヘッドコーチを探すのは簡単ではないだけに、残って新たなチームを作って欲しくもありました。スナイダーという1つの時代が終わり、ジャズは大きな変革を始めます。