佐藤賢次

川崎ブレイブサンダースは、3月12日に行われた天皇杯決勝で千葉ジェッツと対戦。MVPを受賞した藤井祐眞の大暴れもあって前半で19点の大量リードを奪うと、後半に入って追い上げを食らいつつも要所をしっかり締めて82-72で勝利し、大会連覇を達成した。14日の午後、佐藤賢次ヘッドコーチに決勝の振り返り、4月いっぱいまで水曜ゲーム、週末と週3日の過酷なスケジュールが続く終盤戦に向けての意気込みを聞いた。

「トータルで見るとしっかりと準備して決勝までたどり着けました」

――まず、天皇杯優勝おめでとうございます。序盤に大量リードを奪い、後半も追い上げられたとはいえ、常に3ポゼッション以上のセーフティーリードで推移する危なげない展開でした。快心の試合運びだったのではないでしょうか。

試合前に伝えたゲームプランを選手がしっかり理解し、出だしからばっちり集中して最初からやってくれていました。(藤井)祐眞のシュートが入ったところから、勢いに乗ってハマっていった感じです。ディフェンスもオフェンスもプラン通りの前半でした。

ただ、後半は相手もしっかりアジャストしてきました。千葉さんは爆発力がすごいチームなので必ずどこかで流れを持っていかれる。そこをいかに断ち切れるかが、後半のポイントと思っていました。その通りになって、(クリストファー)スミス選手の連続3ポイントシュート成功で勢いに乗せてしまいましたが、そこからマット(ジャニング)が積極的に攻めてくれました。その後も相手に流れがいった時間はありましたが、その中でもブレずにプランをやりきれたのが点数に繋がっていった。短い時間でしたけどハセ(長谷川技)も使いながら、ずっと富樫(勇樹)君を追いかけ回したことが最後に効いたかなという試合でした。

――佐藤さんがヘッドコーチに就任してから、これで天皇杯は3年連続で決勝進出、今回で連覇達成とカップ戦で見事な成績です。

この3年はそれぞれ全く違う大会だったと思っています。1年目はまだ、まとまって複数の試合を一気にこなす大会の中で直前に(篠山)竜青が脱臼して離脱したり、インフルエンザが出たりして、何人か欠いての決勝進出でした。2年目はリーグ戦から外国籍選手のところで大きなケガ人が発生して、非常に難しい舵取りの中でなんとか間に合って形になった感じでした。

今年は大きなケガ人も出ず、3年目にして計画通りにチーム作りを進められている感覚はあります。コロナなどでいろいろとスケジュールの臨機応変な対応は必要でしたが、トータルで見るとしっかりと準備して決勝までたどり着けました。ただ、対戦相手を見ると富山グラウジーズさんは(ジョシュア)スミス選手がいなくて、アルバルク東京さんとは試合すらできなかったです。準決勝の宇都宮ブレックス戦も遠藤(祐亮)君が不在でした。こういった面があったので、自分たちとしてはやり切れましたが、ちょっと複雑な思いもある大会でした。

――決勝戦は素晴らしいクォリティーのバスケットでしたが、これはシーズン当初から描いていたものが形になった格好ですか。

計画通りに進んだ手応えはあります。でも、決勝でやった戦い方をシーズン最初から想定していたかと言えば、全くそうではなかったです。マット(ジャニング)、(前田)悟、ツナ(綱井勇介)、鎌田(裕也)が加入するなど、何名か選手が入れ替わりました。どこのチームも同じですが、夏は外国籍選手が遅れての合流となって、手探りのまま開幕して前半戦はいろいろな経験をしながら、軸を育てつつ何がベストなのかを探す旅でした。それを繰り返しながら新加入選手の強み、特徴が生きるようになってきました。去年、磨き上げたビッグラインナップも武器として使いながら進んできました。決勝に関しては相手が千葉さんと分かっていたので2月のバイウィーク中からどういう戦いをすれば爆発力のある千葉さんに対して、しっかりゲームをコントロールできるのか考えてプランを立てた結果です。

川崎ブレイブサンダーズ

「連動によるスペースの作り方は、全員が同じ方向で攻めることができていたから」

――決勝ではアギラール選手を3番起用するビッグラインナップで高さの優位を生み出すだけでなく、ジャニング選手を起用する布陣でも同時に増田啓介選手を使うなど、試合を通して高さのミスマッチを作っていました。この点はかなり意識していましたか。

今回の決勝戦に関しては大きなポイントだったと思います。例えば3番が1番にスクリーンをかけるなど、まずポイントガードのところで攻めてしっかりペイントタッチすることでローテーションが生まれ、その中でミスマッチがどこかにできる。そこを見逃さないでアタックし続ける部分は、すごく良かったです。第3クォーターのとても苦しい時間帯で、祐眞がアタックしてマットにパスを出す。そこで富樫選手がローテーションで守りにくると、すぐにマットはポストアップを選択する。この判断の速さ、周りの連動によるスペースの作り方は、全員が同じ方向で攻めることができていたからだと思います。

――ジャニング選手は第3クォーターで千葉の流れを切り、計19得点と素晴らしいプレーで優勝に大きく貢献しました。あらためて去年まで在籍したマティアス・カルファニ選手のような4番もこなせるフォワードではなく、ガードタイプのジャニング選手をオフに補強した理由を教えてください。

辻(直人)が抜けることもありましたし、ピック&ロールで良いハンドラーになれる。いろいろとレベルの高い国を経験している選手とやってみたいなと、僕自身が思ったことがあります。北(卓也GM)さんの中には、ビッグマンで外国籍を固めて、日本人のハンドラーを育てていくなどいろいろな選択肢があったと思います。その中で話し合った結果、僕がチャレンジしたいことを汲んでもらって、今の布陣になりました。

マットは今回、先発で使わなかったですが、試合途中から出てきてどんな役割をしなければいけないかを瞬時に分かってくれます。ベンチで一回落ち着いて相手のディフェンスを見て、コートに入るメリットなどを今までの経験から理解して取り組んでくれます。彼の持ち味は巧さ、シュートなどもありますが、この状況を的確に判断して、チームプレーに徹してくれるところがより大きいです。