小野秀二は能代工業が初めての高校3冠を成し遂げた時の選手で、その後は住友金属工業でプレーしつつ日本代表でも長く活躍した。引退後は愛知学泉大学を率いて関東の強豪チームと渡り合い、インカレ4位の成績を収め、トヨタ自動車アルバルク、日立サンロッカーズ、アースフレンズ東京Zと日本代表のヘッドコーチも務めた。過去2年は能代工業と、様々なカテゴリーで指導者を務めてきた。能代工業と名前がなくなった今年の春、小野が選んだ新天地は大阪エヴェッサだった。トップチームのコーチではなく、U15のヘッドコーチをメインに、アンダーカテゴリーとクラブが力を入れるアカデミーの責任者となった。Bリーグの各チームではU15に続いてU18が次々と立ち上がっている。多彩な経験を持つ小野が、今回のチャレンジにどう取り組むのか、その抱負を聞いた。
「これから日本を背負っていく若い世代の選手を指導する」
──まずは今回、エヴェッサアカデミーの校長になったきっかけを教えてください。これまで様々なキャリアを経験している小野さんが、様々な選択肢がある中からプロクラブのユースとスクールを選んだ理由は何ですか?
『校長』は恐れ多いのでやめましょうと、名刺には『ゼネラルアスレティックマネージャー』と入れています。能代工業としての最後の数年間を指導させてもらいましたが、今年4月で体制が変わるということで、次に何をしようかとは漠然と思っていたのですが、非常に早い段階でエヴェッサからこの話をいただきました。ただ、それはまだ去年の話だったので、まずは能代工業のこと、特にウインターカップに集中していました。
私はこれまで『来る者は拒まず』でやってきました。自分が何をやりたいかはもちろんですが望まれることも大事だと思っています。そういう意味では最初に声を掛けていただいたことがすごく大きかったです。エヴェッサにはそれまで縁がありませんでしたし、特に親しくしていた人がいるわけでもなかったのですが、アンダーカテゴリーをしっかりと整備したいという情熱があって、そこに対して「君しかいない」と言われたので、その言葉は大きかったです。
──ユースの指導をする、スクールの基盤を整備する、という仕事についてどんな受け止め方をしていますか?
私は愛知学泉大からコーチのキャリアを始めて、トップリーグのトヨタと日立、Bリーグになってアースフレンズ東京Zを見てきました。その後に能代工業で高校生の指導をしたのですが、これから日本を背負っていく若い世代の選手を指導するのが非常に楽しかったんです。エヴェッサはスクールが非常に充実していて、U15とU18を指導しながらスクールの充実も図りたい、という話がありました。私は若い選手を教えることに加えて、若い指導者に自分の今までの経験を伝えたいとも思っています。
エヴェッサのユースはU12、U15、U18とあって、スクールは39あります。新型コロナウイルスの影響が今も大きいので、こちらに来てから物事はなかなか思うように進まないのですが、スクールの指導者の方々には一回だけですが集まってもらい、私の経験を伝えるミーティングをしました。あとはU15をヘッドコーチとして主に見て、U18はサポートという形で指導しているので、その練習をとにかく見に来てくださいと、そこから始めています。
私自身もユースやスクールのことはまだ勉強中です。そのような中でうれしい驚きがあって、これまでに指導した選手が今はBのアンダーカテゴリーで指導していることがすごく多いことで、教え子たちにいろいろ教えてもらっています(笑)。
「子供たちに、バスケが持ついろんな楽しさを教えたい」
──バスケの指導という点では同じでも、トップで通用する選手を育てる『強化』と競技者数を増やす『普及』は全く別ですよね。これまではずっと『強化』に携わってこられたと思いますが、普及についてはどんな思いがありますか。
まだまだ先だと思ってはいたのですが、子供たちがバスケを始める時の取っ掛かりの部分、バスケットの楽しさ、面白さを伝えることもいずれはやりたかったんです。最初はやはり個から始まりますよね。ボールを扱う楽しさ、シュートを入れる楽しさから始まって、U12ぐらいになって勝負の楽しみが出てくる。そういう意味では普及も強化も関係していると思います。例えば大阪エヴェッサのU12、U15、U18が強くなったり、トップで活躍する選手が出てくると、子供たちが注目するようになります。そこに一つ普及の効果はあります。
今回の東京オリンピックに日本代表が出場して、メディアで取り上げられることによって見る人が増えて、バスケの裾野が広がっていきます。女子はどんどん勝っていったので注目度も増し、バスケを始めようという子供も増えたはずです。そんな子たちに「バスケって楽しい」と教えてあげたい。バスケが持ついろんな楽しさを教えてあげたいですね。
──U15、U18はBリーグの各クラブでようやく形が出来上がってきましたが、それでも理想の姿はまだまだ模索しているところだと思います。U15やU18では、学校部活の強豪チームと比べてどんな違いが出せると思いますか?
ユースで難しいのは練習環境ですね。エヴェッサの練習施設をある程度は優先して使わせていただいているのですが、おおきにアリーナ舞洲に大きなイベントが入るとなかなか練習ができなくなります。能代工業のように毎日優先で使えるわけではなく、U15とU18で使ってもいます。他のチームでもこの部分では苦労しているようです。地元から通って来ることになるので練習時間も限られます。その反面、「ここでバスケットをやりたい」という明確な気持ちを持っている選手なので、教えれば教えただけ吸収します。トヨタで、日立で、能代工業でやっていたのと同じことを教えられる、そういうレベルの指導ができると思っています。
──勝つためには良い選手を集めることも大事です。これからU18を整備していく上で、高校の強豪校と有望な選手の取り合いになることも考えられます。そこの部分での競争に勝つことも意識していますか?
そこはまだ考えていません。最終的に勝つためには良い駒がいないと難しいですが、U18がどうあるべきかを考えるところからですね。日立の時には柏にホームコートがあって、そこではJリーグのレイソルのユースチームも活動していました。彼らは日立の宿舎で生活して、近くの学校に通いながらレイソルユースとして活動していました。そこまでの形ができるとしても、まだもう少し先の話です。今はU15がメインなので、彼らの「もっと上手くなりたい」という気持ちを上手く引き出してあげて、それが次のU18に繋がっていけばと考えています。
「U15では選手たちと一緒にとにかくガチンコ勝負をしていきたい」
──将来的にプロクラブのアンダーカテゴリーはどうなるのが理想でしょうか。
コーチとしてのキャリアスタート時から、私は日本代表の強化を意識してチームを作っていました。トヨタでは折茂武彦と一緒になり、ノーマークを作るシステムができれば必ず得点になりました。学生の時は関東の強豪チームを倒そうと頑張っても、最後のショットが入らずに勝てないことがあったのですが、折茂とやった時は「これが日本のトップの選手か」と思いました。今だと金丸晃輔選手もそうなんでしょうね。そういう選手をいかに作るかを考えたいです。今回はたまたま竹内譲次が大阪に来ましたが、日立の時には彼が日本を背負っていくであろうと見て、私はバスケットに背を向けるのではなく、バスケットに向かって行くフォワードのプレーをさせました。
リーグ自体がエンタテインメント的になってファンが増えている今は、日本のバスケにとってすごく良い状況だと思います。ただし日本人選手の強みをどういうところで生かしていくのか、それが明確でないとアンダーカテゴリーもどういう選手を目指すのか迷います。そこをはっきりさせるにはもう少し時間が必要かもしれませんが、協会もBリーグも含めて考えていきたいです。
今回のオリンピックも八村塁と渡邊雄太がいて期待は大きかったですよね。その中で大事になるのは、Bリーグの選手がどれぐらい力を伸ばせるか。例えば、今回のオリンピックではチームのケミストリーが今一つ噛み合っていないように見えました。私たちの時代のように長い間ずっと一緒に寝泊まりしてチームを作ることは今はなかなかできない状況かと思います。アメリカ代表でさえ同じ問題を抱えて、苦労しながら大会中にチームとしてまとまっていきました。八村と渡邊の2人がいくら良い選手でも、オリンピックのレベルで個ではなかなか難しい。練習時間が少ない中で、日本のバスケットのスタイルを100%ではなくても最低限の共通認識ができれば良いプレーができると思います。
Bリーグの選手たちは普段とは違うバスケをすることに戸惑いがあったのかもしれませんが、それができるような取り組みや順応力が必要かと思います。アンダーカテゴリーの選手もそれを意識しながらバスケをする必要があります。リーグのレベルが上がって全体的なレベルは上がっています。普及と育成も、そこを見ながらやっていくことになります。
──アンダーカテゴリーもそういう意識を持って指導する、ということですね。まずはご自身がヘッドコーチを務めるU15で結果を出すのが目標だと思いますが、具体的な大会としては来年1月のJr.ウインターカップですか?
そうですね。大阪は街クラブも多くてレベルが高いのですが、まずは10月末の予選を勝ち抜けるように頑張りたいです。ゼネラルアスレティックマネージャーとしてやるべきことは多く、一人で全部はできません。ですから多くの方々に力を借りながら、そしてU15では選手たちと一緒にとにかくガチンコ勝負をしていきたいと思います。
大阪に来て大阪の子供たちと楽しくバスケをして、なおかつ高みを目指しています。自分の将来がどうなるのかって分からないじゃないですか。そんな中でいろんなチャンスをいただいて、いろんなカテゴリーでバスケットができるのは本当にありがたいことです。今も自分自身の勉強になっていますし、この年齢でも成長できると思っています。まだまだチャレンジしていくつもりですので、大阪エヴェッサの応援をよろしくお願いします。
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