「今は世界がアメリカに追いつこうとする時代ではない」
今は亡きコービー・ブライアントは、2008年の北京と2012年のロンドンのオリンピック2大会で金メダルを獲得している。彼がまだ生きていれば、東京オリンピックの準備をスタートさせるアメリカ代表にどんなアドバイスを送るだろうか。その答えは「油断するな。金メダルが簡単に手に入ると思ってはいけない」で間違いない。
コービーは2019年のワールドカップのグローバルアンバサダーとして大会に参加した。この大会でアメリカは準々決勝でフランスに敗れ、順位決定戦でもセルビアに敗れて7位に終わっている。NBAのオールスター級の選手たちが次々と代表参加を辞退し、残った選手でチームを組まざるを得なかったが、それは言い訳にならない。
失意のアメリカに、さらなる現実を突き付けたのがコービーだった。勝敗に極めてシビアな考え方をする彼は、当時の会見で「ドリームチームが結成された1992年の時代はもう終わった」と断言している。
「今は世界がアメリカに追いつこうとする時代ではない。もう肩を並べられており、アメリカが勝つ時もあれば負ける時もある。そういう時代になっているんだ。だからこれから、我々にとっては試練になる。『リディチーム2』が結成されたとしても、簡単に勝てる世界ではないことは覚えておかなければいけない」
『リディチーム』とは、銅メダルに終わった2004年のアテネオリンピックからの名誉挽回のために結成された北京オリンピックのアメリカ代表チームのこと。ワールドカップの敗因をスター選手の不在で片付けてはいけない、というコービーのメッセージだ。
今回のアメリカ代表で『チームの顔』となるのはケビン・デュラントで、2012年のロンドン大会ではコービーとともに金メダルを獲得。リオ五輪でも優勝した経験を持つ。2019年のワールドカップでは不在だったデュラントを筆頭にオールスター級の選手が東京オリンピックには揃うが、それで勝ったと思えば先行きは危うい。ワールドカップでアメリカを敗退に追いやったフランス、決勝で戦ったスペインとアルゼンチンと、脅威となるチームは複数存在する。
これから始動するアメリカ代表チームが、決して十分ではない準備期間をいかに活用するか。NBAのプレーオフを勝ち進んで合流が遅れる選手たちをどうチームにフィットさせるか。またコロナ禍での大会にどうアジャストするか。それらの課題をクリアし、なおかつコートで全力を尽くすことで、金メダルの可能性は初めて見えてくる。2019年ワールドカップを経験し、東京オリンピックにも参加するのはジェイソン・テイタムとクリス・ミドルトンの2人。楽観的なムードを戒め、チームを正しい方向に進める意味で、2人のリーダーシップに期待したい。