マルコム・ブログドン

2巡目指名で初の新人王、『50-40-90』を達成

新シーズン開幕まで1週間と迫った中、マルコム・ブログドンが現役引退を決断し、9年のNBAキャリアに終止符を打ちました。バックスの中心選手として活躍し、ペイサーズからエースとして迎え入れられ、セルティックスでは優勝へのラストピースとして求められた実力者でしたが、この2シーズンは欠場が多く、昨シーズンはわずか24試合の出場に留まっており、NBAでのプレーに限界を感じての引退となりました。

大学で5年もプレーして2016年のNBAドラフトに臨んだブログドンは、36位指名と評価は高くありませんでしたが即戦力として活躍し、2巡目指名選手として史上初の新人王を獲得しました。ワン&ダンが多い上位指名の選手に対して、彼はキャリア4年目と同じ年齢であり、ルーキー離れした完成度でのルーキー・オブ・ザ・イヤー受賞でした。

1年目から2桁得点と3ポイントシュート成功率40%超えを記録し、3年目にはフィールドゴール成功率50%、フリースロー成功率90%も超える『50-40-90』を達成。堅実なプレーでミスが少なく、アシスト/ターンオーバー率も常に良い数字を記録してきました。身体能力は凡庸だし、派手なスキルも持ち合わせていませんが、的確な状況判断と正確なプレーの重要性を世界最高の舞台で示しました。

ワン&ダンはポテンシャルこそ高くてもプレー精度を高めるのに時間がかかり、即戦力として試合に起用しにくい選手が多く、近年では上級生のドラフト指名が増えています。ブログドンの成功がその流れを作ったのは間違いありません。

ブログドンの強みは『インテリジェンス』にもあり、バックス時代は成長段階にあったヤニス・アデトクンポ中心のオフェンスの中でコーナーで待つこともありながら、相手が対応してきたと見るやハンドラーとして変化をつけていくなど、複数のポジションをこなしながら試合の流れも読んだプレーが目立ちました。

エース格として迎え入れられたペイサーズではポイントセンターのドマンタス・サボニスと組みながらプレーメークを行い、起点としてもフィニッシャーとしても機能する必要がありましたが、この役割も見事に遂行して、2020-21シーズンにはキャリアハイの21.2得点を記録しています。戦術の変化に柔軟に対応できるインテリジェンスが、ブログドンの価値を高めていきました。

セルティックスではジェイソン・テイタムとジェイレン・ブラウンが中心で、ボールを持つ機会が減りましたが、その分シューターとしての働きを高水準でこなし、キャリア最高の3ポイントシュート成功率44.4%を記録しています。ディフェンスでも複数のポジションを守っており、インテリジェンスとプレー精度の高さでシックスマン・アワードを獲得しました。

196cm104kgと体格には恵まれていたものの、モンスターだらけのNBAという世界でブログドンは『普通の人間』でした。ジャンプ力やスピードといった身体能力だけでなく、切れ味鋭いハンドリングスキル、相手を騙すトリッキーさ、ステップバックによる止められないフィニッシュスキルといった『超人的なプレー』を見せることはありませんでした。

しかし、基本スキルの高さとインテリジェンスはNBAでもトップレベルで、正しいタイミングで正しいプレーを選択することで、『普通の人間』が世界最高の舞台でも通用することを示しました。身体能力に頼らないだけに、年を重ねてもプレーできそうでしたが、32歳での現役引退となりました。