琉球ゴールデンキングスの荒川颯は昨シーズン、大きなステップアップを遂げた。レギュラーシーズン終盤には持ち前の得点力を発揮。4月に4試合連続で2桁得点を挙げるなどオフェンスの起爆剤となり、ファイナル第2戦では13得点を挙げて勝利に導いたことも記憶に新しい。練習生での加入から2シーズン目で充実した1年を過ごしたことへの手応え、さらなる活躍のために意識している部分を語ってもらった。
「もう1つ上の段階の悔しさを経験できた」
──改めて昨シーズンは荒川選手にとってどんな1年でしたか。
ジェットコースターのようなすごく波のある、濃い1年だったと思います。シーズンが始まってすぐの時期は、負傷した伊藤達哉さんの分までいろいろな役割を背負おうとして苦しみましたし、課題も見えました。後半戦では大きな成功体験を得ることができて、良い部分も悪い部分もたくさん経験できました。体感として1シーズンとは思えないくらい長かったです。キングスに加入してからの2シーズンは本当に濃密な時間を送らせてもらっていて、その前を振り返ると10年前、20年前を振り返る感覚になるくらいです(笑)。
──後半戦での成功体験は荒川選手にどのような変化をもたらしましたか。
調子に乗っているわけではないですが、すごく簡単な言葉で表現すると、ゆとりを持ってプレーできる場面が増えたと思います。僕は昨シーズン、まずはチャンピオンシップで結果を出すというより、リーグで上位チーム相手にどれだけ自分の良さを出せるのかを課題としていました。今シーズンに上位チームと実際に対戦しないとわからないところはありますが、心のゆとり、「もっと俺もできるんだ」という気持ちになった変化は大きいです。
──チャンピオンシップで結果を残せたことで達成感を得たのか。それともより悔しさを感じたのか。心情としてはどちらのほうが近いでしょうか。
試合にからむことができなかった一昨年とは違う種類の悔しさでした。チームは天皇杯で優勝を経験しましたが、自分はそこで活躍できなかったので「僕が勝たせるんだ」という気持ちでチャンピオンシップに臨みました。ファイナル第2戦こそ少しは貢献できたと思っていますが、結局はリーグ優勝をつかみとることはできていません。立場が変わったことで、もう1つ上の段階の悔しさを経験したと思います。
──チャンピオンシップに入ってからファイナル第2戦までは、シュートになかなか当たりが来ませんでした。シュートタッチが悪い時期に重なってしまったのでしょうか。
タッチが悪い時期に重なったわけではないと思います。チャンピオンシップになると試合の空気感も変わりますし、(岸本)隆一さんの言葉を借りると、戦術どうこうではない部分で激しい戦いになります。僕自身もチャンピオンシップを2シーズン経験していますが、チャンピオンシップでも安定したプレーをするためには、高められる部分を高めていくしかないと感じています。答えになっているかわからないですけど、とても難しいです。
「ボールを持たれたら怖いと思われるくらいの選手に」
──オフシーズンは、どのように過ごしていましたか。
これまでのシーズンはオフも毎日のようにバスケをやっていましたが、今年はちょっとバスケから離れました。それもあって「バスケをしたい」という気持ちがすごく高まった状態でシーズンインとなりました。スキル面に関しては、身体を動かしていなかったからこそ「自分に何か必要なのか」というところを整理する時間がしっかり取れました。いつもと違った形でしたが、充実したオフになりました。
──スキルの整理について、もう少しくわしく教えてもらえますか。
新しいことを考えるというより、今までやってきたことの中から「正しかった」「いまいちだった」と感じたことを取捨選択する作業が多かったです。その上で、シーズン終盤に与えられた役割である得点とクリエイトをもっと尖らせていきたいと思います。ハンドラーの役割を突き詰めて、「あいつにボールを持たれたら怖い」と思われるくらいの選手になっていかないといけない。そこは練習からこだわって取り組んでいます。
──荒川選手がチームで出番を得たきっかけは激しいディフェンスでしたが、今シーズンはオフェンスに注力したいと考えているのですね。
学生時代はオフェンスを得意としていましたが、プロではまったく通用しませんでした。紆余曲折を経てキングスにたどり着き、ディフェンスが武器になるという自分でも想像できなかったことが起こりました。プレータイムをさらに増やすことを考えて足し算をしていった結果が成功体験に繋がったことで、よりオフェンスを意識できるようになりました。
プロになったころは、自分の能力のピラミッドの上の部分ばかり練習してうまくいかなったので、土台がしっかりしてきた今だからこそオフェンスのことを考えられるようになったのかなとも思えます。チームにおける自分の状況も変わってきて、これまでと違うことにチャレンジしている段階です。その中で、自分の武器と役割をもっと尖らせていきたいという感覚です。
──メンタルの部分について質問があります。昨シーズンの荒川選手は、大舞台でもベンチスタートからすぐにシュートを打つ積極的な姿勢が印象でした。プレッシャーのかかる状況でアグレッシブさを持つことは簡単ではないですが、それができたことに手応えはありますか。
「ファンの方の声援、期待に応えてやる」という気持ちが強いからこそ、大舞台でも強気でいけるようになったと思います。もちろん自分が成長した部分もあるからだと信じたいですけど(笑)。振り返ると学生時代は多分、自分のためにプレーしていて、そういう軽さがあったからこそ結果も出なかったし、まわりもついてこなかった。まわりの期待に応えたい思いが強ければ強いほど自分のメンタルも強くなれる。そういう風に変わることができたのは多分、キングスに来てから。自分ではなく支えてくれる人のために、という思いは大きくなっています。
──「今日はスタメンの○○選手が欠場で出番が増えるだろうから2桁得点を狙おう」というようなマインドにならないほうが、良いパフォーマンスが出せるということですか。
そうですね。学生の時は毎試合「20点を取りにいってやろう」「全部俺に任せろ」くらいの感じてはいたと思います。ただ、プロではそうやって得点を狙いにいけるレベルになかったですし「大切なのはそこじゃないよね」と気づけたからこそ今があると思います。