
横浜エクセレンスは今シーズンのB3で盤石の安定感を見せた。レギュラーシーズンを45勝7敗の首位で終え、プレーオフではセミファイナルで岩手ビッグブルズを奇跡的な逆転劇で破ってB2復帰を勝ち取り、ファイナルではアースフレンズ東京Zに2連勝して優勝を果たした。2度のライセンス不交付によるB3降格を経験し、2021年に横浜へ移転してから4度目の挑戦でB2昇格をつかんだ。昨年夏にヘッドコーチに就任した河合竜児に、B2昇格に情熱を燃やしたチームの軌跡を振り返ってもらった。
「我々は決して『TBのチーム』とは思っていません」
──B3優勝、昇格おめでとうございます。レギュラーシーズン1位、プレーオフも岩手ビッグブルズに1つ負けた以外はきっちり勝って、完璧なシーズンだったように見えます。
ありがとうございます。どのチームも優勝や昇格を目標に掲げる中で、自分たちがそれを有言実行できたのは本当に良かったと思います。私自身、ライジングゼファー福岡に続いて2度目の昇格で、それを期待されてヘッドコーチを任されているので、うれしい反面、ホッとしたというのが一番ですね。
──優勝と昇格までの道のり、長いシーズンのどこから振り返りましょうか。
まずは開幕以前ですね。プレシーズンで1勝もしていないんですよ。天皇杯予選で日本経済大には勝ちましたが、翌日には佐賀に負けています。富山とのプレシーズンに負け、非公開でやった川崎との練習試合にも負け、開幕戦では湘南相手に負けて、思うようなスタートではありませんでした。
自分では良いと思って進めていても、結果が出ない時に「このアプローチではダメなんじゃないか」と不安になることは正直ありました。前半戦はチームとしてのまとまりを欠いたのですが、選手たちが「自分の一番の武器は何なのか」、「何を求められているのか」、「このチームで何をすれば一番貢献できるか」という理解度を高めて、少しずつ良くなっていきました。
──トレイ・ボイド選手は得点王、年間MVPを受賞しました。満場一致のMVPと呼ぶべきパフォーマンスでしたが、彼の存在はどれだけ重要でしたか。
外部の人からは「TB(ボイド)だけのチームで、TBだけ何とかすれば勝てる」みたいなことを結構言われたと思いますが、我々は決して『TBのチーム』だとは思っていません。メインスコアラーでありエースですが、日本人エースとして増子匠がいて、TBがダメな時には増子が、それでも守られるとなればチームとしてどうやってみんなのシュートを作っていくか、それをシーズンの頭からずっとやってきました。例えば、3ポイントシュートがそれほど得意ではない杉山裕介が自分の役割としてオープンショットを打ち切るようなプレーです。
外から見ると点数をたくさん取るTBが目立って見えるかもしれませんが、彼自身も「みんなが自分のためにプレーしている」とは思っていなくて、みんなが彼を生かす中で、彼が他の選手をどう生かすかも考えていました。TBが一番チームに貢献できるのは得点力という突出した部分だったからこそ、彼はそれを担ってチームにプラスを生み出す。彼にも弱点はありますが、それを日本人選手がみんなで隠して、突出した強みだけを目立たせる。TBをエースにして戦ってきたのは事実ですが、TBだけのチームではないと思っています。

「ゲーム1は絶対に取ろうと言い続けてきました」
──プレーオフを戦う上で大事にしたのはどんな部分ですか。
開幕から「ゲーム1は絶対に取ろう」と言い続けてきました。ゲーム1を取らなければ連勝はありません。プレーオフでは勝ち星先行で入らないとメンタル的に厳しくなります。第2戦を前に「ここで負けたら昇格できない」という状況は生きた心地がしません。だからこそ、ゲーム1を必ず取る習慣を作りたかったんです。
初戦を落としたチームがゲーム2で勝って1勝1敗に持って行くケースは多いですが、それはゲーム1で勝ったチームが少し緩み、負けたチームは絶対に負けられないからとパフォーマンスを上げるからです。でも、自分たちはゲーム1で勝って、ゲーム2でバウンスバックを狙って強い結束を持ったチームを跳ね返す力を培っていかなきゃいけない、とシーズンと通して言い続けてきました。
ただ、昇格が懸かった一番大事なプレーオフの岩手戦でゲーム1を落としてしまいました。「プレーオフはレギュラーシーズンの順位は関係ない、勢いがあるチームが勝つ」とよく言われますが、僕はちょっと違うと思っています。勢いがあるチームが勝つのではなく、思いの強いチームに勢いが来るんです。
私は以前に福岡で昇格していますが、その時はB1でプレーしていた選手たちがB3に来て、「最短でB1に昇格する。こんなところで負けられない」という強い気持ちがありました。レギュラーシーズン終盤に連敗した後のロッカールームで選手たちが、「この部屋を出たら一切愚痴は言わない、プレーオフで勝つことだけを考えよう」と話し合ったんです。岩手とのゲーム1が終わった時にその話をして「だからみんなもここで」と伝えました。
──それでゲーム2に勝ち、ゲーム3では劇的な形での勝利になりました。
岩手が残り数秒で3ポイントシュートを決めてリードして「これを守りきったら勝ちだ」と、相当に勝ちを意識しました。そこで気が緩んだとは言いませんが、勝ち急いだのだと思います。最後はファウルができない場面でコンテストが甘くなった。そこにTBのシュートが決まったのかなと。ウチの選手たちが最後の1秒、最後の0秒まであきらめなかったのも大きいです。
──ファイナルでは東京Zに連勝して、ゲーム2はセーフティリードを保っての勝利でした。試合後のインタビューでは感極まった様子でしたが、どんな心境でしたか。
昇格はすでに決まっていたので、優勝に感極まることは正直そこまでなかったんです。でも、福岡の時もファイナルで秋田に勝って山下泰弘と小林大祐が泣いたんですよ。彼らの涙を見て「これまでしんどかっただろうな」と思ったら泣けてきちゃって。
今回も谷口淳が現役引退を決めていて、「最高の形で送り出してあげられて良かった。しかも最後の試合でハッスルしてくれた」と思いました。あとは板橋真平ですね。昇格するために移籍して来たのに開幕前に右膝前十字靱帯をケガしてしまい、ようやく復帰してクォーターファイナルで3ポイントシュートを決めたりしたのに、岩手戦でまた損傷してしまって。その時、彼が涙を流しながらみんなと握手して、「明日は絶対勝ってください」と言うんです。その板橋の喜ぶ姿を見て「こいつのために優勝できて良かった」と。
その2人のことを考えたら、こみ上げてきてしまいました。選手たちには「人の痛みが分かる人間でなきゃダメだ」、「そいつの立場になって考えろ」と言っているので、泣いても良いんですけど、年齢とともに涙もろくなっています(笑)。

来シーズンのB2では「プレーオフには絶対に出たい」
──昇格という至上命題を果たした時点で合格だと思いますが、シーズンを通して横浜EXをどう評価しますか。
私が合流した頃から今シーズン前半までは、自分に厳しくて他人にも厳しいチームでした。ミスをした選手に「何やってんだよ!」と言ってもいいですが、言いっぱなしになってほしくない。突き落とすのは簡単ですが、「指摘したなら引き上げてあげよう」と根気強く伝えました。
シーズンが進むにつれて選手たちが理解してくれて、良い空気感が出来上がってきました。例えばTBがボールを持ちすぎて、そこで他の選手がフラストレーションを感じることがあったんですけど、そこも選手同士で解消して、個性の強い選手たちが一つになったと感じます。特にファイナルの2試合では、そこが本当にちゃんとしていました。
──長いシーズンがハッピーエンドで終わって、今はひとまずリラックスしてオフを楽しむのか、もう来シーズンのことを考え始めているのか、どちらですか。
やっぱり終わった時から、次のことは考えてしまいますね(笑)。今シーズンのB3は突出した予算を持ったチームがいなくて、結果としてどのチームも「昇格のチャンスがあるぞ」というモチベーションで戦うことができましたが、来シーズンはどのチームもモチベーションが大変だと思います。上位チームは優勝を狙うでしょうが、自動降格もありませんし、中堅チームや下位チームはBプレミアやBワンで良いスタートを切るための準備期間ととらえるところも出てくると思います。
ですが、私たちに準備期間は関係なくて、どのコーチも選手もB2で勝ちたいと考えます。そんな中で我々も勝ちたいし、同時にB2で簡単に勝てるわけはないのですが、「どうやってプレーオフに進出しよう」と考えています。オフに入ったばかりで、まだ具体的に何かをするわけではありませんが、誰が抜けて誰が入ってくるかを想像しながら、今シーズンのバスケだとB2でどこまで行けるのか、みたいなことを考えています。
──現時点で来シーズンのチーム作りはどのように考えていますか。
路線としては今シーズンとあまり変わらず、チームの横の繋がりを強くして、人の心が分かる選手たちが手を取り合って、目の前の試合にどう勝つかを考えながら共同作業で戦っていきたい。今シーズンはその積み重ねで優勝できました。来シーズンはそんなに簡単ではないと思いますが、そのスタイルで今シーズンよりも成熟したチームを作り、プレーオフを目指したいです。
──やはりプレーオフ進出にはこだわりたいですか。
優勝を決めた時の会見で「ここ数年の昇格チームはすべて翌年のB2プレーオフに出ています」と言われたんです。そう言われてしまうと出ないわけにはいかないので(笑)。先ほども話した通りで、プレーオフに行くことができれば何とかなる可能性はあると思っているので、プレーオフには絶対に出たいです。
──最後にこの1年を支えてくれて、来シーズンのB2での戦いを楽しみにしているブースターの皆さんへのメッセージをお願いします。
今シーズンずっと、特にプレーオフではブースターさんに支えられて、大声援で相手が大事なフリースローを落とすシーンが何度もありました。エクセレンスが横浜に移転してから、あれだけ大きな声を出してもらえる試合はなかったと思うんですよね。そういった意味ではチームとブースターさんが一緒に成長できたシーズンだったと感じています。これをスタンダードにして、お互いに勝ち負けの苦楽をともにする中で、さらに高みを目指したいです。