後半にリードを築き完勝を収める
1月29日、群馬クレインサンダーズはアウェーで越谷アルファーズと対戦した。東地区1位の宇都宮ブレックスと同3位の千葉ジェッツが直接対決する今節、同2位の群馬にとって敗戦は許されなかった。前半こそ苦しい時間帯があったものの後半に流れをつかみ、67-87で勝利し、シーズン24勝目を手にした。
第1クォーター、群馬はトレイ・ジョーンズの得点で引き離しを隠したが、越谷の松山駿にアタックや3ポイントシュートを許しリズムに乗り切れない。残り12秒には星川堅信のコーナースリーで追いつかれ、このままクォーターを終わるとかと思えたが、終了間際に野本建吾が放った3ポイントシュートがリングに吸い込まれ、ベンチは総立ちの大盛り上がり。21-18とリードを保って第1クォーターを終えた。
第1クォーターの勢いそのままに、藤井祐眞の長距離砲などで出だしからリードを築いた群馬だったが、越谷のトランジションに翻弄され始める。淺野ケニーがこの2本目の3ポイントシュートを決めたところで越谷にタイムアウトを取らせたが、その後パタリと得点が止まってしまった。約3分間にわたって無得点が続き、逆転を許し、42-38のビハンドで後半を迎える。
試合が決したのは第3クォーター。開始直後のジョーンズの負傷退場というアクシデントはあったもののディフェンス強度が増した群馬は、越谷のターンオーバーとシュートミスを誘発し、約6分間に渡って越谷を無得点に抑える。この間に藤井の連続得点などで20点を積み上げて、一気にリードを広げた。最終クォーターも盤石の試合運びで、越谷に付け入るスキを与えなかった。
試合後、群馬のカイル・ミリングヘッドコーチはチーム全員でつかんだ勝利だったと試合を振り返った。「前半は越谷さんにトランジションでやられてしまった場面が多かったので、選手たちにはハーフコートでプレーさせるようにと言いました。ベンチメンバーが多く関わり、いいチームウィンでした」
ミリングヘッドコーチの言う通り、この日の群馬はベンチメンバーの活躍が目立った。その中でも野本の攻守に渡るステップアップはチームの大きな力になっていた。チーム内での役割上、ベンチを温めることも多い野本だが、コートに立てば指揮官の期待に必ず応える。
ミリングヘッドコーチは野本をこう評価する。「シーズンの中盤は流れに乗り切れないことがある時期ですので、チーム全体で集中してほしいと選手たちには話しました。建吾はチームのためにプレーする選手で、常に準備ができています。いつコートに送っても彼がやらなければならないことを理解しています」
「『とりあえず祐眞さんにボール預けよう』と(笑)」
まず野本がチームから求められているのは、強度の高いディフェンスだ。越谷戦ではインサイド陣のティム・ソアレスやカイル・リチャードソンとマッチアップする時間帯もあれば、機動力とパワーを兼ね備えたLJ・ピークと対峙する時間帯もある。野本は臆することなく彼らに体をぶつけて、タフショットを打たせ、リバウンドでも十分に渡り合った。その奮闘が前述のブザービーターに繋がった。
同点に追いつかれ、重い雰囲気が漂い始めた場面での値千金のプレーは間違いなくチームに勢いをもたらした。『Ice in my veins.』(自分の血管を指差すセレブレーション)を模した、野本らしい少し不恰好な喜び方もファンを大きく盛り上げた。「すごい嬉しかったです。あれ(セレブレーション)は自然と出ちゃいました」
しかし、野本は最初からこのシュートを狙っていたわけではないと明かす。「残り数秒だったので『とりあえず祐眞さんにボール預けよう』と思っていました(笑)。一旦、祐眞さんに預けたんですけど、自分のディフェンスが祐眞さんに寄っていたので、思い切りよく打ちました」
続く第2クォーターも野本はコートに立ち続けた。クォーターの終盤1~2分を日本人ビッグマンが繋ぎ、クォーターの始めに交代するという起用法はよく見られるが、競った展開でミリングヘッドコーチが野本を起用し続けたのは、彼の奮闘を評価したからだろう。野本は点差を広げた後半にも出場し、外国籍ビッグマンの負担を減らすことに成功。過密日程のリーグ戦において、この試合で野本の出場時間が増えたことはチームにとってプラスになったのは間違いない。
野本の出場時間は、ヨハネス・ティーマンが欠場した10月の川崎ブレイブサンダース戦が19分43秒で今シーズン最長。この試合がそれに次ぐ12分30秒の出場となった。出場時間が安定しない日本人ビッグマンという難しい役回りを、野本はキャリアを通じてまっとうしている。
「やっていることは変わらないんですけど。常にチーム練習で自分が持っているものを最大限に出して、チームコンセプトなど当たり前のことを当たり前にやっています。コーチ陣が良い準備をしてくれるので、それを全力で毎日やっていっている結果が、こういう試合を作っていると思います」
難しいことをやっているわけではないという口ぶりではあるが、たくさんの苦労はあるだろう。しかし野本はポジティブにやるべきことにフォーカスしている。「自分だけの力ではなくて、チームメートやコーチ、スタッフのおかげで今があります。自分は全力でやり続けるだけですし、自分からもアイディアを出しながら一生懸命に準備するだけです。(チームを)信頼しています」
勝利後の円陣では野本が中心に入って、チームメートから激励を受けていた(叩かれていた)。好調なチームを支える究極の仕事人として必要不可欠な存在であることは間違いないが、次の出場がいつになるかは本人も分からない。その中でもブレずに役割を遂行する野本の奮闘をチームメート全員が待っている。