文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE

試合開始から富山が15-0のビッグランでリードを奪う

仙台89ERSに完勝を収めた富山グラウジーズと、秋田ノーザンハピネッツを劇的なブザービーターで破った横浜ビー・コルセアーズが、勝てば残留が決まる一戦に臨んだ。同じ中地区の両チームは6度対戦して3勝3敗。得失点差も富山の+4とほぼ差が付いていない。もっとも、最初の3試合を横浜が勝った後は富山が3連勝していた。

ティップオフから15-0と富山がビッグランを披露する。開始から約7分間、横浜の得点を許さない完璧なディフェンスを遂行。サム・ウィラードと小原翼が交互にジェフリー・パーマーをケアしてリングへの進路をシャットアウト。川村卓也にもオープンで打つ機会を与えなかった。

富山のヘッドコーチ、ボブ・ナッシュはこのゲームを通じて見せた守備をこう説明する。「相手がやりたいことが何か、非常に細かいところまで選手が気を配った。アグレッシブなスイッチ、アグレッシブなショーディフェンスであったり、それは普段のディフェンスの取り組みと全く同じ。選手たちが素晴らしい集中力を見せてくれた」

4分が経過したところでパスを受けることもままならないパーマーが一度ベンチへ。ファイ・パプ月瑠は強烈なプレッシャーを受けて前を向けず、細谷将司もボールを失わないのが精一杯。川村が何とか打開しようとシュートを狙うが、崩し切らないままに放つシュートは決まらず、さらにリズムを狂わせる結果に。川村は苦しいこの時間帯をこう振り返る。「富山に限らずどのチームも激しく来るんですが、受けてしまったのが良くなかった。出だしに自分でリズムを持ってこれず、イージーシュートも決められなかった。自分の出来がチームに影響を与えてしまった」

山田謙治、高島一貴、湊谷安玲久司朱のセカンドユニットが立て直し、11-20と1桁の点差で第1クォーターをまとめた横浜だが、第2クォーター早々に山田がファウルトラブルでベンチに下がるなど波に乗れない。両チームともフィジカルなディフェンスでファウルがかさむ展開の中、速攻や合わせで崩してのイージーシュートを決めるのも、守備でよく手を出しボールを引っ掛けるのも富山。それでも横浜はタフショット気味のシュートをしぶとく沈めて食らい付く。

一時は逆転を許すも指揮官「理解していた」と動じず

後半に入ると我慢を続けた横浜が反撃の糸口をつかむ。横浜が固めるペイント内での力攻めに固執した富山の得点が止まる一方で、横浜は足もボールも動き出す。岡田優のミドルレンジのシュートで逃げる富山だが、ディフェンスの中心を担っていた水戸健史がファウルトラブルでベンチに下がったところを川村が見逃さずに突き、バスケット・カウントの3点プレーを決めて40-42と1ポゼッション差にとらえる。富山は水戸に代わって入った山崎稜が5ファウルで退場。残り2分4秒、リバウンドから走った高島の速攻が決まり、47-46と横浜がついに逆転した。

それでも、最終的に富山が勝ったこの試合の趨勢を決定付けたのは、横浜が最も勢いに乗ったこのタイミングで、富山のベンチが慌てなかったことだ。ナッシュヘッドコーチは「横浜に対して何点リードがあってもセーフティではないし、横浜の時間帯が来ることも理解していた」と覚悟を語る。ベンチが動じる素振りを見せなかったことで、選手たちも落ち着いた。ヘッドコーチは続ける。「あそこで必要だったのは、一度トーンダウンし、しっかりオーガナイズされた状態を作ること。あとはアグレッシブにバスケットに向かう気持ち。3ポイントシュートの確率は低かったが、アタックはできていた」

チームが息を吹き返すきっかけとなる得点を奪ったのは『守備専任』の小原翼だった。「決め打ちじゃないけど、あそこでもらったら打っていいシチュエーションだと先輩方に言われています。デックス(デクスター・ピットマン)がリバウンドを取ってくれると信じて、思い切って打ちに行けました」と小原。ボブ・ナッシュの『孝行息子』は、パプのチェックにも迷いなく放ったシュートを決めて、すぐさまリードを取り戻す。ここから富山はチームファウルが5に達していた横浜を攻め立て、フリースローで得点を重ねて、小原の得点から始まる8-0のランで54-47と差を広げて第3クォーターを終えた。

フィジカルなディフェンスゲーム、フリースローで明暗

最終クォーターは互いに消耗しながらもフィジカルなディフェンスの強度を落とさない、意地と意地のぶつかり合いとなった。開始50秒、横浜の粘り強い戦いを支えてきた山田が立て続けに2つのファウルを犯し、痛恨のファウルアウト。ここからまたも走られ、立ち上がりの15点のビハインドを超える16点のビハインドを背負うことに。決してきれいな形ではないが、ピックを使ってアタックの形を作る富山はフリースローで得点を重ねていく。対する横浜はパーマーとジェイソン・ウォッシュバーンにボールを集めるが、なかなか差を詰められない。

残り3分12秒の場面でパーマーが審判に文句を言ってテクニカルファウル。そのパーマーに他の選手たちが露骨に失望した態度を見せるなど、チームとしての結束と集中を維持できなくなっていた。細谷の3ポイントシュート、パーマーとウォッシュバーンのバスケット・カウントで1桁までは詰めるも、射程圏内にとらえることはできず。ピットマンと湊谷もファウルアウトになる最後まで続くフィジカルのぶつかり合いの末、79-71で勝利した富山がB1残留を決めている。

オフェンスリバウンドで24-9と圧倒した横浜だが、これはリバウンドを取ったというよりもシュートを外しまくった結果。3ポイントシュートが26本中5本(19.2%)、2ポイントシュートが48本中21本(43.8%)と確率が上がらなかった。富山は31本のフリースローを獲得して26本を決めており(83.9%)、中でも岡田は11本中10本のフリースローを沈めている。横浜は18本中14本成功と成功率こそ高かったが、本数の差が勝敗に大きく響いた。

パーマーはゲームハイの26得点。川村と細谷も10得点ずつを挙げ、横浜は最終的に得点を71まで伸ばしたが、尺野将太ヘッドコーチは「出だしの部分をリカバーできなかったのが悔やまれます。結果としては悔しいですが、最後の1秒まで戦えたことを次につなげたい」と語った。

赤と青に塗り分けられた代々木第二は最高の雰囲気に

岡田優はシーズンハイの25得点。「これで決める、次はないんだという気持ちで戦いました。『負けるとB2』というのが重くのしかかって、自分だけじゃなくブースターや僕たちの家族が悲しむと思うとプレッシャーになりました。自分がB1にチームを残すんだという気持ちでした」と、この試合に懸けた決意を語る。

ファウルトラブルに陥りながらも強度の高いディフェンスを最後まで続けたキャプテンの水戸健史は「1試合通してチームとして良いディフェンスができて、相手に気持ちよくシュートを打たせなかった。全員が1部に残留するんだという強い気持ちが出た」と試合を振り返る。そして「試合が終わって安心した気持ちと、なかなか良い結果が出なかった中で応援してくれたファンの方々に感謝の気持ちでいっぱい」と語る。

この試合、特筆すべきは会場の雰囲気。金曜ナイトゲームにもかかわらず、富山から多くのブースターが駆け付けた。代々木第二は2723人の満員。まるで図ったように富山の赤と横浜の青でスタンドは塗り分けられた。中立地開催ということでホームチームに偏った演出がなかったが、両チームのブースターは圧倒的な声量を出し、最高のアリーナの雰囲気を作り出した。

残留を決めた富山のブースターは、ひとしきり勝利を喜んだ後、タフな勝負を繰り広げた相手を横浜コールで称えた。横浜は次週、B2の3位チームとの入れ替え戦に臨む。試合後に「反省しきり」と語った川村だが、会見中のわずかな時間のうちに気持ちを切り替え、「幸いにもあと1試合できる。今年のビーコルの集大成を次で見せます」とB1残留を誓った。