文=鈴木健一郎 写真=古後登志夫

世界を経験して戻って来た筑波で「これでは全然ダメ」

先週行われた福岡大学付属大濠との練習試合、大学王者の貫禄を見せて相手を圧倒する筑波において、馬場雄大のプレーは群を抜いていた。フィジカルもスピードもスキルも、すべてが上。さらにはその能力をコート上で生かすためのバスケIQでもエリート高校生を圧倒した。もっとも、日本代表でも活躍する馬場にとっては当然のこと。圧倒的なパフォーマンスと同じぐらい、フラストレーションを溜めながらプレーする姿が気になった。

「これでは全然ダメです」と話す馬場の表情からは危機感がありありと見て取れた。「ずっと代表や学生代表があって、チームに合流したのがついこの間なんです。去年のチームと比べると、今はまだまだと感じていて。後輩たちも去年のチームの心、先輩の意思を受け継がなければいけない。そこはちょっと大変かもしれないです。最初の大会が大切だと思うので、ここから引き締めていきます」

昨シーズンのチームで主力を張った4年生が引退し、代替わりしたチームにおいて、リーダーシップを発揮するのは馬場であり杉浦佑成、1年生から主力として活躍してきた2人だ。新4年生としてチームを引っ張る立場について馬場はこう話す。「杉浦はリーダーシップがあるんですよ。でも生原さんがいたので、経験は足りない。僕たちがコートで表現したり声を出したりする、そこは去年とは違って意識してやっているところです」

去年キャプテンを務めた生原秀将は卒業して栃木ブレックスへ。いなくなってあらためて、リーダーの大変さを感じている。「生原さんがいたから去年のチームがありました。1年間、本当に苦労されたと思います。生原さんのようにはまだいかないのですが、少しでもチームをまとめられるようやっていきたいです」

代表で得た『責任を持ってプレーしたい』という意識

日本代表の重点強化選手に選ばれ、2月にはイラン戦でA代表デビューを飾った。テクニカルアドバイザーを務めるルカ・パヴィチェヴィッチの下で、スキル向上のワークアウトを実施した。「スキルアップということで、マンツーマンで見てもらって基礎を叩き込まれました。これから先を考えての意識も変わりました」と馬場。特別指定選手としてBリーグを経験するという選択肢もあったが「こっちで良かったです」と言い切る。

ただ、『世界』を経験したことで技術的にも精神的にも得たものは大きいが、いざ大学に戻って来た今、難しさにも直面している。冒頭で挙げた『フラストレーション』もここによるものが大きい。「正直、難しい部分はあります。代表は代表、チームはチームということで、立場も違うので切り替えないといけない。代表でやってきたことをチームに還元しないといけない。物足りない部分は、周りに合わせてしまってはダメなので、自分のレベルにまで引き上げるつもりでやっていきます」

日本代表のルカコーチから「チームで周りにパスしているようでは、この先に未来はない」と言われたことが、馬場の意識を変えた。「自己中心的になるのとは違うのですが、自分に責任を持つということが今まではなかった。『責任を持ってプレーしたい』という意識が付きました」

目指すプレーヤー像はNBAサンダーのラッセル・ウェストブルック。「身体能力が高くてスピードがあって、行ける時は自ら点を取りに行くポイントガードが理想です。アシストもしますけど、メインは得点を取ることと考えていきたい」と馬場は言う。

大学ラストシーズン、見てほしいのは『成長した姿』

馬場は現在21歳。24歳で迎える東京オリンピック、その2020年を一つの目標に据えている。「焦りはないですが、1秒たりとも無駄にする時間はないと考えています。短いとは言いますけど、3年ちょっとあるので、スキルアップするにはまだまだ十分な時間です。日によって上がり下がりはあると思いますが、上を目指していきたいです」

「この3年ちょっとで、どの部分を伸ばしていきたいか」という質問に対して、しばらく考えた後に馬場は「今はまだ伸びしろしかないと思うので」と話し始めた。「技術とかどこ云々ではなく、できないところを時間をかけて向上させていきたいです。だから『ここを見てくれ』というのは嫌ですね。強いて言うならランニングプレーなんですが、そこはできると分かっているじゃないですか。だから、見てほしいのは『成長した姿』です」

入学以来、勝利が続く筑波大も最終学年。卒業後の進路についても「東京オリンピックに向けて、そこまでに自分が一番スキルアップできる環境を選びたいと思っています」と言う。「それは日本にしろアメリカにしろ、自分で判断したいです。目標はNBAでプレーすること。そこにいかに近付けるかが大切だと思うので。東京オリンピックまでには仕上げたい、そのために環境という部分で選んでいきたいと思います」

『目的』ははっきりしている。あとはその『手段』をどうするか。「いろんな人から話を聞いています。ルカもそうですし、知っている方は知っておられるので。最終的には自分で決めることなので、責任を持って探していきたいと思います」

焦らず、油断せず──。馬場雄大の挑戦は始まったばかりだ。